日常の一コマシリーズ≪vol.2≫
「榊、おい、榊!」
土門はマリコの肩を揺する。
「う……ん」
「こんなところで寝てると風邪を引くぞ!」
土門が帰宅してみると、ソファの上で小さく丸まったマリコが微睡んでいたのだ。
部屋の中とはいえ、大分涼しい季節になりつつある。
何も掛けずうたた寝すれば、マリコなどは必ず風邪を引くに違いない。
「榊、寝室へ行け!」
「うん……」
返事らしきものはするのだが、すぐにすーすーと穏やかな寝息が聞こえる。
「全く……!おい、さ、か、き!」
「……ねむ、い、の」
子どものようにぐずるマリコ。
土門は、『うっ……』と声に詰まる。
何故なら。
――――― かわいい。
「そうじゃない!」と土門はふるふると頭を振る。
「眠いなら、ベッドへ行って寝ろ。ここだと、体が痛くなるぞ?」
「んんっ……………連れてって、どもんさん……」
『んっ!』とマリコは土門へ腕を伸ばす。
抱いていけというのだろう。
土門は「やれやれ」と思いながらも、まんざらでもない表情でマリコを抱き上げた。
「あっ……」
「なんだ?」
マリコは土門のワイシャツに鼻先を擦り付ける。
「土門さんのにおい……」
「……………!!!」
土門の耳がすごい勢いで赤くなる。
熱が集まり出す前に、急いで土門は寝室へ向かった。
マリコをベッドにおろすと、布団を掛ける。
おまけに、頭をポンポンと弾むように撫でると、土門は部屋を出ようとマリコへ背を向けた。
その瞬間。
ぐいっとワイシャツが強めに引っ張られた。
「榊?」
振り返った土門に。
「……いっちゃうの?」
「……………………」
「こいつはっ!」と無意識のマリコに頭をかかえる。
「眠いんだろう?」
「うん。………でも、寒い」
確かに、移されたベッドはひんやりとしていて、マリコから温もりを奪っていく。
とろんとした“マリコビーム・タイプB”に追い詰められる土門。
しかしその時、ピコン!と土門にあるアイデアが浮かんだ。
「そうか…。で、お前はどうして欲しいんだ?」
「?」
「布団は掛けてやったぞ。そのうち温まるだろう?あとは何をすればいいんだ?」
明らかにマリコの言葉を待っている土門は、堪えても堪えても、口もとが緩んでしまう。
「……………」
マリコは枕に顔を埋めてしまった。
「ん?どうした?何も無いなら、おれは戻るぞ。ゆっくり休めよ」
マリコはちらりと枕から目だけをのぞかせる。
その縁がうっすら赤いのは、土門の気のせいではないだろう。
「榊?」
「………一緒に」
「ん?」
「一緒に……………寝て?」
これ以上は待てず、土門はするりとマリコの隣に滑り込んだ。
背中からマリコを包み込む。
「あったかい……」
思わずマリコから声が漏れた。
そのまま、土門はしばらくマリコの髪を撫で続けた。
乱れた髪を耳にかけ、現れた形のいい耳たぶの裏に舌を這わせる。
「榊、温めてや…る……?」
土門は背後からマリコをのぞきこんだ。
「榊?」
マリコは腰に回された土門の手に指を絡めたまま、静かな寝息を立てていた。
してやられたのは自分の方か…、と土門は苦笑する。
それでも、穏やかなマリコの寝顔を見られるのは自分だけの特権だと思い直す。
もうしばらく、そんなマリコを見ていたい……。
けれど。
マリコの柔らかな身体と温もり。
穏やかに続く息づかい。
それらが土門を夢の世界へと誘う。
あと少し、もう少し……。
そう願いながら、土門の瞼もゆっくりとおりていく。
――――― 星の瞬く静かな夜に。
Night night, baby♡の一コマである。
fin.
■■■ どもマリに、一コマな質問…など(笑) ■■■
*管…わたくし、管理人でーす(^^)/
管「せっかく移転してきたので、ちょっとその後の二人をのぞいてみましょう( ̄▽ ̄)b」
*****
マ「土門さん?何、ニヤニヤしてるの?」
土「いや、手を伸ばしてねだるお前も可愛いなと思い出していた」
マ「やだぁ!私、そんなことした?小さい頃父さんにやってた癖が出たのね……」
土「…………(くそっ!お姫さま抱っこに続いて、また“父さん”の後釜か!)」
マ「どうかした?」
土「………いや」
マ「へんな土門さん!それより、急がないと遅刻ね」
土「そうだな」
よっとベッドを降りようとする土門を、マリコが引き止める。
土「ん?」
マ「おはよう、土門さん!」
軽いリップ音が土門の耳元で弾ける。
土「これも“父さん”との癖か?」
マ「まさか!土門さんだけに決まってるでしょう!?」
土「……………」
その答えに、フレンチ・キスだけで済むわけもなく………。
刻一刻と進む時計の針だけが、二人のその後を知っていた。
*****
管「……お粗末さまです(笑)」