日常の一コマシリーズ≪vol.2≫



建国記念日の今日、土門はマリコと共にとある現場にいた。
マリコにどうしても付き合ってほしいと頼まれたからだ。

到着した土門は、まず目を丸くした。
そこは周囲を♡で彩られ、広いフロア全体が甘い香りで満たされている。
現場とはそう、バレンタイン用のチョコレート販売会場だったのだ。

(もしかして、俺に渡すチョコレートを一緒に選んでほしいということか?)

土門は隣のマリコをちらっと見る。
マリコは受付で配布された会場の見取り図を見ながら、どの店を回ろうか考えているようだった。

(こいつもカワイイところあるな)

やにの下がった土門は、マリコに引っ張られるようにして、最初のブースへと足を踏み入れた。


「ええと、どれがいいかしらね」

「(お前がくれるなら)何だって嬉しいぞ」

「そうはいかないわよ。あまり安いものは選べないわね」

「値段のことなんか気にするな」

「ダメよ。いつもお世話になっているんだし」

「いや、本当に気持ちだけで十分……」

「あ!これがいいわ」

マリコが選んだのはベルギー王室御用達の有名ブランドチョコレートだった。
小さい箱ながら、数千円の値札がついており、土門は驚いた。

「おい、榊。そんな高価なものじゃなくていいだろう」

「いいのよ。これで“部長”の“仏頂”面も和らぐといいんだけど…」

『あ、これ、冗談じゃないわよ…ふふふっ』とマリコは笑う。

対して、土門は笑う気にもならない。

(何だ、部長のか)

「あと一つはどれにしようかしら」

ぴくっと耳をそばだてた土門は、気を取り直してマリコの後に付いていく。

すると、マリコは和風テイストの店の前で足を止め、ショーケースを覗き込んだ。

「へー、日本酒のチョコレートですって!珍しいわね」

「本当だ。美味そうだな」

「んー。でも、ダメダメ。たとえチョコレートでもお酒は控えなきゃ」

「これくらい大丈夫だろ」

「ダメよ…ダメダメ。母さんに怒られちゃうわ」

『あ、これもネタじゃないわよ…ぷっ』と吹き出し、マリコは一人ご機嫌だ。

その隣で、土門はこの世の終わりのような暗い顔をしている。

(これは親父さんの分か…)

「さあ。これでいいわ。土門さん、付き合ってくれてありがとう」

「……………」

土門は声も出ず、♡のオブジェを苦々しく見つめるのだった。



そして、バレンタイン当日。
土門は翌日が非番だというマリコの部屋にいた。

先日の当てつけもあり、マリコに焼きもちの一つも焼かせたい土門は、他部署の女性職員からもらったチョコレートをこれみよがしに披露する。
ところがマリコは興味なさそうに見向きもしない。

そうかと思えば。

「土門さん。私からもチョコレート。はい」

ポン!と渡されたのはチロルチョコ一粒。

呆気に取られる土門を、マリコは何故か赤い顔で手招きした。

「それとね、こっちに来て」

誘われるまま、寝室に入る土門。

明かりを落とした室内で、マリコは何かゴソゴソと準備をしている。

「本当はこっちが本命なの。……もらってくれる?」

✨Oh, fantastic!(๑•̀ㅂ•́)و✧✨

土門の目の前には“せくしーらんじぇりー”姿で恥じらうマリコ。
大方、早月あたりの入れ知恵だろうと思いつつも、土門の興奮はMAXに。

何ラウンド目かの終了のゴングが鳴っても、尚も勢いづく土門だったが、突然つぅーと鼻の下を赤い線が流れ出す。

「きゃあ、土門さん!」

チョコレートマリコの食べすぎにはご注意を!


2022年バレンタインデーの一コマである。



fin.



■■■ どもマリ(+α)に、質問…など(笑) ■■■
*管…わたくし、管理人でーす(^^)/


「きゃあ、土門さん!大丈夫!?」

マリコが焦って起き上がる。
すると…。

“ぽよよ〜ん”。

揺れる雪見だいふくに触発され、土門の鼻血はいっこうに止まらない。

「大変!ティッシュ…じゃ足りないわね。タオル!」

マリコは床に落ちていた土門のワイシャツを羽織ると、急ぎ足で洗面所へ向かう。
しかし…。
ダボッとした俺シャツの後ろ姿は、今の土門には非常に目の毒だった。


管「はぁ…╮( -᷄ ᴗ -᷅ )╭ヤレヤレ。チョコレートより甘い二人だわ」


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