日常の一コマシリーズ≪vol.2≫
「連日、熱戦が続いているわね!」
今日の二人は、マリコの自宅のソファでテレビを見ている。
「何が?」
「何がって…オリンピックよ!土門さん、見てないの?」
『まさか?』とマリコは驚いた様子だ。
「俺には、お前からそんなセリフを聞くことが驚きだ。一通り、結果は見ているぞ」
「これを機に、何かスポーツを始めようかしら?」
「運動音痴がか?」
「失礼ね。あまりやってこなかっただけよ」
苦しい言い訳に、土門は口の端をピクピクさせて笑いを堪える。
「で、何をやってみるんだ?」
「実益を兼ねて、やっぱり柔道とかレスリングかしら?」
「ハードルは高そうだがな…」
「でも、万一犯人と格闘するときに役立つでしょう?」
「お前なぁ。普通の研究員なら、そんな可能性は万に一つもないぞ?」
土門は呆れ顔だ。
「それに、土門さんに助けてもらうばっかりなのも申し訳ないじゃない?」
「そんなことは……別に。気にするな。だが、自己防衛として身につけておくことはいいだろう」
「うん。土門さん、練習相手になってくれる?」
「……………」
「土門さん?」
「寝技ならな」
「もう!」
マリコは顔を赤らめて憤慨する。
――――― そんな顔をするからだ……。
「榊、ちょっと立ってみろ」
「え?な、なに??」
土門は立ち上がったマリコに手を伸ばした。
マリコの首の後ろからシャツの襟を掴み、反対の手で腰を支えた。
「何って、練習するんだろう?」
「本来なら道着の奥襟と袖を掴むんだが…。お前は初心者だからな。怪我防止のために、少し違う型だ」
そう言うと、ひょいっと土門はマリコの足を払った。
「ええっ!?キャア!!!」
マリコの体がぐらりと揺れ、ゆっくりと視界が壁から天井へと変わった。
ぽすん!
土門の腕に支えられ、マリコはソファの上に仰向けに寝かされていた。
技をかけた本人は“一本”を取るため、容赦なく押さえ込みに入る。
「土門さん……」
「何だ?」
「これって何の練習?」
マリコのくりんとした瞳が、真上にある土門の顔をじっと見つめる。
「受け身だ。まずはこれをマスターしないと怪我をする。それに…………」
「毎回、“こう”なるわけね?」
「そういうことだな」
『ふぅ…』とマリコが諦めの溜息をつくと、土門はうれしそうに笑う。
――――― その笑顔が曲者ね……。
敗北を認めたマリコは、勝者を称える。
その頬に“ちゅっ”と小さな音を響かせて。
『TOKYO2020 お疲れさま』の一コマである。
fin.
■■■ どもマリに、一コマな質問…など(笑) ■■■
*管…わたくし、管理人でーす(^^)/
管「東京大会、柔道は強かったですね〜」
マリコの自宅で、手土産に持参した桃を頬張る管理人は、テレビのオリンピック放送を見ながらのんびりと感慨に耽る。
土「お前、人の家でなに寛いでやがる!」
管「土門さんだって、ここは“人の家”じゃないですか!」
土「俺はいいんだ!」
管「ふーん」
マ「もう!仲良くして、二人とも。土門さん、この桃美味しいわよ」
土「いや。俺は別の桃の方がだな……」
ブツブツ愚痴る土門を、マリコは完全にスルーする。
マ「あ!柔道のハイライト、始まったわね」
マリコはテレビの前に陣取ると、真剣にVTRに見入る。
管「マリコさん、柔道好きなんですか?」
マ「実はね。ちょっと始めてみたの」
管「え?なんでまた…護身術としてですか?」
マ「そう。でも案外受け身が難しくて……」
管「受け身?」
マ「土門さんに技をかけられても、上手く受け身の姿勢が取れないの」
管「…………………………」
管理人、じーっと土門を凝視する。
土「な、なんだ?」
マ「ふーーーーーーん」
土「だから、何だ!」
管「マリコさん、もう練習なんて必要ないですよ」
マ「え?」
管「十分、素晴らしい受け身をされていると思いますから!」
マ「???」
土「管理人、お前………もう帰れ」
管「言われなくても!でもその前に………これもどうぞ!🍑」
土門の口にカットした桃を突っ込む。
土「むぐっ!」
管「こっち“も”、瑞々しくて、美味しいですよねぇ?( ̄ー ̄)ニヤリ」