日常の一コマシリーズ≪vol.2≫
「この栗も持って行くかね?」
「ありがとうございます。…カワイイ狸ですね」
マリコは、離れた場所で木の実を集める狸の姿に笑みを浮かべる。
「ポン太、いうんです。いつの間にかここらに居ついちまってね。今じゃ、家族みたいなもんですわ」
「じゃあ、お孫さんかしら?」
「ハッハッハ!」
浅黒い顔で高笑いを響かせる。
なんとも元気なお年寄りだ。
数日前、山奥の小さな集落で殺人事件が発生した。
現場検証にはマリコたちも呼ばれ、立ち会った。
その後の捜査で事件自体は、自殺であることが判明した。
しかしその間、この集落に通い詰めていたマリコたちと住民と間には、自然と親交が深まりつつあった。
そして撤収の際には、別れを惜しむ住民から沢山の農産物を手土産にいただいた。
冒頭のやり取りも、そんな一コマである。
それから暫くして。
マリコは、たまたま府警近くに新しくオープンしたコンビニに立ち寄った。
切れていた栄養ドリンクと、機能性食品をいくつかカゴに入れ、レジに並んだ。
「いらっしゃいませー。ポンタはお持ちですか?」
「え!?…あ、いえ」
「エコバッグはお持ちですか?」
「あ、いいえ」
「レジ袋は必要ですか?1枚3円になりますが」
「はい………」
上の空で返事をするマリコに、店員は訝しげな視線を向けるが、余計な詮索はしない。
いちいち気にするより、さっさと会計待ちの列を捌くほうが急務だからだ。
「ありがとうございましたー」
コンビニ袋を下げて帰る途中、マリコは呂太とすれ違った。
「呂太くん、ポンタ…って持っている?」
「うん。持ってるよ。僕はアプリだけどね」
「アプリ!?」
「どーしたの?」
その驚きぶりに、呂太の方がビックリした。
そして。
「あはは!!マリコさん、確かにポンタのキャラはタヌキだけどさー。まさか本物のタヌキなわけないよー」
「私だってコンビニへタヌキを連れて行くなんて思ってないわよ。でも何か…タヌキに関するものを皆は持っているのかしら、って思ったの」
「それじゃあさ。マリコさん、Tカードは知ってる?」
「tea?紅茶を買うカード?」
「ブー!じゃあ、ナナコは?」
「呂太くんの彼女?」
「……………」
もはや呂太は笑いが止まらない。
「橋口、その辺にしておけ」
「土門さん!」
「榊がそういうことに疎いヤツなのは知ってるだろうが……」
「疎いって、失礼ね!」
「実際、知らんだろうが?」
「そう…だけど」
「まあ、お前の場合、知らなくても仕方ないけどな」
「え?なんで??」
これは呂太のセリフ。
「榊は滅多にコンビニなんて行かないだろう?」
「そういえば、あまり行かないわね」
「そうなの!?僕なんて毎日行ってるよ!」
「だって、欲しいものは大体土門さんが買ってきてくれるのよね?」
「お陰で俺は大分ポイントが溜まったぞ」
「あ!それが狙いなのね?」
『そんなわけないじゃん…。さらっとイチャイチャしないでよー』
呂太は一気に力が抜けた。
「土門さんは今からコンビニ行くの?」
「ん?」
「そのポイントで僕にプリン買って!」
「なんで、お前に………」
「あてられたお返しだよ!!!」
呂太は土門の腕を掴むと、コンビニへと引っ張っていく。
「ま、待て!俺は榊を送って……」
「私、先に戻っているわね」
可愛らしく手をふるマリコに未練を残しつつ、土門は呂太に連行される。
珍しい光景に知り合いの署員たちは目を丸くして二人を見送った。
「言っとくけど、プッチンじゃダメだからね!」
『呂太の災難!?』な一コマである。
fin.
■■■ どもマリに、一コマな質問…など(笑) ■■■
*管…わたくし、管理人でーす(^^)/
管「聞きましたよー( ̄▼ ̄)ニヤッ 呂太くんに連行されたそうですね?」
土「れ、連行!?人聞きの悪いことをいうな!あれは、た・ま・た・ま一緒にコンビニへ行っただけだ!」
管「はい、はい。た・ま・た・ま、ねぇ?」
マ「あら?管理人さん、こんにちは」
管「マリコさん、お邪魔してます。そうだ!これ、頼まれていたものです。後でユーザー登録してくださいね」
マ「ありがとうございます」
土「何だ?」
マ「ポンタカードよ。新しくできたコンビニで使えるから」
土門はマリコの手からカードをひょいと奪う。
土「お前はこういうの使い慣れてないからな。どうせうっかり持っていくのを忘れるに決まってる」
マ「そ、そんなことないわよ」
土「いーや、ある!必要なものがあれば今までのように連絡しろ」
マ「でも、土門さんだって忙しいのに…」
土「コンビニに寄るぐらい大した手間じゃない」
マ「………いいの?」
土「だからそう言ってる。俺に余計な気を回す必要はない。いいな?」
マ「うん…」
明らかに二人の周囲だけピンク色めいて見えるのは、目の錯覚ではないだろう。
管「あのー。私、帰ったほうがいいですかね?」
土「なんだ?まだ居たのか?」
管「💢💢💢」