日常の一コマシリーズ≪vol.2≫
京都で氷点下を記録した夜半、空からはパラパラと白い粉雪が舞っていた。
「明日は積もるかしら…」
マリコは結露でうっすら曇った窓から道路を眺める。
「少し早起きしたほうがいいわね」
翌朝は昨夜の暗い雲が嘘のように、すっきりと晴れ渡っていた。
しかし、寒い!
マリコはニット帽に、マフラーを巻いていても尚、ぶるりと体を震わせた。
「あ、良かったわ。積もってない」
スノーブーツの足を一歩踏み出し…。
「きゃぁ!」
つるりと滑りかけ、慌てて立ち止まる。
雪は積もっていないが、道路には氷が張っていた。
マリコは考える。
このまま徒歩で進んだとして、何度転べば府警に着くだろう…。
『よし!どうせ転ぶなら』
マリコはくるりと方向転換すると、自転車置き場へ向かう。
そこで、『おい!』と飛び止められた。
「おい、お前。まさか自転車で出勤するつもりじゃないだろうな?」
「え?土門さん??」
振り返ったマリコの目の前には、土門が立っていた。
この寒空に、トレンチ一枚だ。
「土門さん、寒くないの?」
「そんなことより、自転車で行く気か?と聞いている」
「だってどうせ転ぶんだし……」
「自転車のほうが早く進む、か?」
「…ええ」
「ばか!お前、本当に科学者か?」
「だって他に方法がないもの。休むわけにはいかないし……」
「車で行けばいい」
「?」
「俺が何でここに居ると思うんだ?」
「あ、そうよね。何でここに居るの、土門さん?」
「…………」
脱力しかけた土門だが、何とか持ち直す。
「藤倉部長から連絡があったんだよ。車通勤者は、できるだけ近くの署員を拾ってやれってな」
「でも、土門さんの家からうちだと、結構距離があるわよね?」
「く、車だからな。そうでもない。それに、この近所に誰か乗せてくれるやつはいるのか?」
「うーん。知らないわ、私」
「だろ?いないなら仕方ないからな」
…嘘である。
この近くには車通勤者が数人いる。
しかし、そこは捜査一課警部補の“鶴の一声”で、彼らには別の署員の迎えに向かわせた。
「分かったら、行くぞ。道は混雑しているだろうからな」
「ええ。ありがとう、土門さん」
小さく笑うマリコの口から白い息が立ち上る。
頬は寒さに赤く染まっている。
その彩りが、朝日を浴びて『ああ、きれいだな』と、土門は一瞬見惚れた。
「他にも誰か迎えに行くの?」
走り出した車も、大通りに出るとすぐに渋滞に捕まった。
「いや、他に頼まれてはいない」
またまた嘘である。
他の車は、大の男が定員ギリギリの5人でぎゅうぎゅう詰めだ。
しかしそこは捜査一課警部補の“鶴の一声”……省略しよう。
「榊、後ろの席のビニール袋取れるか?」
マリコは後部座席へ腕を伸ばす。
「これ?」
「中を見てみろ」
「サンドイッチ?」
「どうせ朝飯抜きだろう。今のうちに食っておけ」
「ありがとう!でも、2つあるわよ?」
「俺もまだなんだ。お前が食わん方を俺は食べる」
「じゃぁ……」
マリコはサラダサンドを選び、土門にはタマゴサンドが渡ることになった。
「袋を開けてくれないか?あとは運転しながら食べる」
「分かったわ」
マリコは封を開け、取り出したサンドイッチを土門に手渡す準備をする。
しかし、いつもとは違う道路状態にスリップしかけたり、急ブレーキを踏んだりする車も多く、土門は中々ハンドルから手を離すことができない。
「すまん、俺は後で食べる」
マリコはサンドイッチと土門を見比べると、すっと腕を伸ばした。
「はい、土門さん。あーんして」
「な、なに!?」
「だって手が離せないから仕方ないでしょう。はい、口を開けて…」
「い、いや、それは……」
「早くして。私も食べるんだから!」
「わ、分かった」
土門は正面を向いたまま、口を開ける。
そして差し出されたサンドイッチを一口齧った。
もぐもぐと咀嚼する間に、マリコも同じサンドイッチを齧っていた。
それはつまり、間接……。
「おい、いいのか?タマゴサンドで…」
「ええ。タマゴサンドも好きだし、こうすれば二人で色々な味が楽しめるでしょう?」
『ね?』なんてにっこり笑って言われては、土門はもう…何も言えねぇ。
無自覚の可愛さは、非情なる罪だと改めて実感する。
どうせなら。
二人だけの時間。
二人だけのこの空間を最大限に利用しようじゃないか。
開き直った土門は、まるで雛鳥のように口を開けてサンドイッチを催促した。
「はい、あーん」
一方。
隣の車線では…。
「み、み、み、見た!?呂太くん!!!」
「見た、見たよ、亜美さん♡蒲原さんも見えたよね〜?」
「…いや、俺は見えなかった」
「嘘!」
「嘘じゃない。土門さんがあーん…いや、見てない。断じて見てない」
「そんなことより!蒲原さん、何とか二人の車にもっと近づいてください」
「な、なんで?」
「そりゃ、もちろん…」
「シャッターチャンスだよね。僕も狙っちゃお!」
真剣な表情でスマホを構える二人に、蒲原はこの先の悪夢を覚悟した。
朝の出勤風景の一コマ(冬バージョン)である。
fin.
■■■ どもマリに、一コマな質問…など(笑) ■■■
*管…わたくし、管理人でーす(^^)/
管「明けましておめでとうございまーす!」
マ「管理人さん、おめでとうございます。今年もよろしくお願いします」
管「こちらこそ…」
深々とおじぎを交わす、マリコと管理人。
管「土門さんもよろしくお願いします」
土「……………ムスッ」
管「何か…怒ってます?」
マ「な、何でもないの!ほら、土門さんもそんな仏頂面しないで…」
土「無理だ。気に食わんものは、気に食わん!」
マ「もう、子供なんだから…」
土「ふんっ!」
管「あの…。土門さん、私、何かしました?」
土「いや、していない」
管「……ε-(´∀`*)ホッ」
土「していないから、問題なんだ!」
管「え?」
土「大体、いつも人のことをけしかけるくせに、なんだ!」
管「なんだ、と言われても?」
土「なんで正月一発目が、こんな子供だましな話なんだ!」
管「えっとぉ……(それは新しいお話が進んでないから( ̄▽ ̄;))」
土「どうせなら、別の“一発”にすれば…ゴニョゴニョ」
マ「ちょっと!土門さん!」
管「ははーん。確かに!」
マ「か、管理人さんまで!?」
管「そうですよね、正月“一発”目はきっちりと……」
土「そうだろう、そうだろう?」
管「わかりました。では、マリコさん」
マ「は、はい?」
管「覚悟してくださいね?( ̄∇ ̄)ニヤッ」
マ「ええ?」
――――― マリコ、危うし?
管「“一発”といえばこれですよね!」
土「……………」
マ「わぁー、懐かしい♪」
管「マリコさん、やります?」
マ「もちろん!土門さんもやりましょうよ」
土「…………………………」
“一発”は“一発”でも。
それは海賊の飛び出す『黒ひげ危機一発』←結局はこんなオチ(^_^;)