日常の一コマシリーズ≪vol.2≫





関西地区で定期的に行われている会議に藤倉の名代として出席した土門とマリコは、夕方の満員電車に揺られ京都府警を目指していた。

急行電車は通勤客でごった返し、土門とマリコは少しずつ客の波に押し流され、気づけば離ればなれとなってしまっていた。

仕方なく、土門はキオスクで購入した新聞を読み始める。
マリコも雑誌を読もうかとバッグを開いたところで違和感に気づいた。

「?」

背中に何かが当たった気がしたのだ。
しかしこんなに混んでいる車内なら、誰かとぶつかることもあるだろう。
マリコは特に気にすることなく、科学雑誌に意識を集中させた。

この電車は急行のため、いくつかの駅には停車せず通過する。
次に停車するのは三つ先の駅だ。
一つ目を通過し、二つ目に向かう途中で、再びマリコは気づいた。

今度は気のせいではない。
誰かが自分のヒップに触れている。

振り返り確かめようにも身動きが取れない。
始めはぶつかる程度だった手が、だんだんと意思を持って這い回り、下着のラインをたどり出した。

「……………」

おぞましさに、マリコは血の気が引いた。

その時、電車は二つ目の駅を通過した。
その一瞬、電車が揺れた。
マリコは場所を動こうと身をよじるが、その手は執拗に後を追ってきた。

途端に怖くなり、マリコは口を開いた。
しかし喉はカラカラに渇き、声にならない。

――――― 土門さん!

マリコはすがるように、数メートル離れた先の土門を見つめる。

すると、土門がふっと新聞から顔を上げた。
マリコと目が合うと、途端に厳しい表情を見せる。

ようやく、停車駅のホームに電車が滑り込む。
開いたドアから乗客が吐き出される瞬間を見逃さず、土門は人波を掻き分けてマリコに近づくと、すかさずマリコの背後に手を伸ばした。

「おいっ!何してやがる!!」

しかしほんの一瞬の差で、手が逃げていく。

「くそっ!待てっ…………」

すぐに追いかけようとした土門だったが、動きを止めた。
そして、視線を下に向ける。

「榊、大丈夫か?」

自分の腕の中で小さな身体がカタカタと震えていた。
うつ向いたままの表情は分からないが、きっとうっすら瞳は潤んでいるに違いない。
そんなマリコを放ったままにすることなど、土門にはできなかった。

ポンポンと背中を叩き、土門はマリコを落ち着かせる。

「ごめんなさい、土門さん」

慌てて離れようとするマリコを、しかし土門は離さない。

「土門さん?」

「ここにいればいい。怖かったんだろう?」

「…………」

「俺の前で強がる必要があるのか?」

「で、でも……」

「『でも』もへったくれもあるか!俺はお前の恋人じゃないのか?恋人が痴漢に遭っているところを守れなかったばかりか、震えている身体を抱き締めることもできないんじゃ……ただのヘタレだ」

ずーんと落ち込む様子の土門に、マリコが「そんなこと……」と否定の言葉を言いかける……。


「いやぁ。そんなことあらへん。立派やったで~。あんちゃん!」

「せやせや!男っちゅうもんをみせてもろたわ」

「こっちの別嬪さんも幸せもんやな。こんな男前のにぃちゃんが側におって」

と、突然周囲の客から拍手があがる。
車内は二人を取り巻き、やんややんやの大盛り上がりを見せる。

どこからか“ヒュー”と口笛まで聞こえる。

土門とマリコは顔を赤らめ、ただただ身を縮こませるのだった。

ラブラブはTPOをわきまえて!

新たな教訓の一コマである。



fin.



■■■ どもマリに、一コマな質問…など(笑) ■■■
*管…わたくし、管理人でーす(^^)/


管「なんて一幕があったそうですね?」

土「なぜ知っている?」

管「ちょうど知人がその電車に乗り合わせていたんですよ。それでこんなことがあった…と写真つきで教えてくれたんです。そうしたら、なんとまあ!真っ赤な顔したお二人が写っているんですから、驚いたのなんのって!」

マ「いやだわ、恥ずかしい……」

土「おい、管理人」

管「はい?」

土「その写真、どうした?」

管「え?スマホにありますけど」

土「今すぐ消せ!そしてその知人にも削除するように伝えろ!」

マ「土門さん?何を怒っているの?」

土「『何を』だとぉ!?」

土門の眉がピクピク痙攣する。

土「お前の赤面姿なんて、流出してみろ!どうなるか予測もつかん!」

マ「?」

マリコは訳が分からず、ポカンと口を開けている。

土「その顔も、俺以外の前ではするな!」

マ「どうして?」

ますます困惑し、マリコは首をかしげる。

土「どうしても、だ!まったくいちいち可愛い仕草をしやがって……」

『心臓がもちやしない…』などと土門はぶつくさ悪態をつく。

なるほど。
確かに時と場所とシチュエーションはわきまえて欲しい……と感じる管理人であった。

管「まったく、こっちのほうがこっぱずかしくなっちゃうわヽ(`Д´)ノプンプン」



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