日常の一コマシリーズ≪vol.2≫
非番の昼前、マリコのスマホが着信を告げる。
「もし、もし…、かあ…さん?なあに?」
『ふわぁ~』とあくびを噛み殺しながら、マリコが画面をタップする。
すると。
『マリちゃん、まだパジャマなの?』
飽きれたような声に、どうして分かるの?とマリコはスマホを覗き込んだ。
「母さん?」
『なあに?』
「どうしたの…テレビ電話だなんて!」
『ふふん。この前、お友達に教えてもらったのよ』
いずみは自慢げだ。
『マリちゃん、全然帰ってこないんだもの…。だからね、こっちからオンライン帰省してあげようと思って!それにしても、もう10時半よ…。いつまでそんな恰好しているの?ちゃんとね……』
「わ、分ったから。ちゃんと着替えるわよ!それで、今日は何の用?」
『何の用?……マリコ、今日は何日かしら?』
いずみの声が心持ち低くなる。
「今日?……5月10日よ」
『そうね。じゃあ、今日は何の日かしら?』
「え?………………あっ!母の日ね!?」
『マリちゃんでも、母の日は知ってるのね~』
いずみの言葉はトゲトゲしている。
「ごめん、母さん。遅れちゃうけど、カーネーションを送るわね」
『いらないわよ』
「え?」
『マリちゃん。前に、母さんがリクエストしたプレゼント、覚えてる?』
「えっと……」
『まだかしら?私は男の子でも女の子でもいいんだけど?』
「あっ……」
ようやくマリコは思い出した。
以前、いずみがマリコにねだった母の日のプレゼント。
それは……“孫”だ。
『まったく…。こんな時間まで寝坊したり、パジャマでうろうろしたり。そんな調子じゃあ、まだまだ先なのかしら……。それにしても、ちゃんとお肌のお手入れとかはしてるの?放っておくと、すぐに干からびちゃうわよ!』
「干からびちゃう…って」
マリコは苦笑する。
その時、背後で声がした。
「榊、飯の仕度ができたぞ!」
ひょい、とキッチンから顔をのぞかせた土門に、マリコは慌ててスマホを裏返した。
「どうした?」
「な、何でもない!」
「早く着替えてこい。冷めるぞ」
「わ、わかった」
土門はエプロンを外しながら、キッチンへ戻っていった。
マリコは恐る恐るスマホを表に返す。
聞こえていたに違いない。
絶対………。
「あ、あの……。母さん?」
『ふぅ~ん。干からびてはないみたいね』
画面には“にっこり”笑ういずみの顔が映っていた。
『それどころか、潤ってるのかしら?』
いずみは興味深々とマリコへたずねる。
「な!なに言ってるの!」
『あら?女には大事なことじゃないの』
「も、もう。用がそれだけなら、切るわよ!」
『待ちなさい!いーい、マリちゃんももう若くないんだから、真面目に考えないとダメよ!基礎体温はつけてるの?産み分けは?あのね一番いい方法はね………』
マリコは無言で通話を切断した。
「か、母さんてば!」
二人で遅いブランチをとりながら、マリコはいずみとの電話の内容を土門に打ち明けた。
「ははは!さすがは榊マリコの母親だな」
「笑いごとじゃないわよ……」
「まさか、法医担当のお前に子作りのレクチャーをするなんてな!」
土門は笑いが止まらないらしい。
「何よ、土門さんまで。他人事だと思って!」
「バカ言うな。俺だって当事者だろう」
「……………」
「今日は予定変更だな」
「え?本屋に行くんじゃなかったの?」
「それはまた今度だ。せっかくだからな、お袋さんのレクチャーを試してみよう」
「……………冗談?」
「本気だ」
間髪入れずに戻った返事に、マリコの顔が『かぁ…』と赤くなる。
「おいおい…。そんな顔されたら……」
人気の消えたダイニングテーブルには、片付けられぬままの食器が残されていた。
飲みかけのオレンジジュースも……きっともう温くなってしまったに違いない。
母の日攻防戦2020の一コマである。
fin.
■■■ どもマリに、一コマな質問…など(笑) ■■■
*管…わたくし、管理人でーす(^^)/
管「それで…母の日はどうしたんですか?」
マ「送ったわよ、カーネーション」
管「お母様は何て?」
マリコはいずみの返事を思い出し、苦笑する。
マ「来年こそは!って念押しされたわ」
管「あら!(笑)」
マ「でもね…もう一つ困ったことがあるの」
管「どうしたんですか?」
マ「土門さんのことよ」
管「土門さん?」
マ「あれから母さんより乗り気になっちゃって……」
管「……それは、愛されてますね。マリコさん!( *´艸`)♡」
マ「sigh……」
ーーーーー 土門宅にて。
カチッ、カチ、カチ。
土「ほぅ…。今はオンライン助産院なんてあるのか?外に出られない妊婦には安心だな。他には?」
カチッ、カチ、カチ。
土「こっちの産院は、父親学級の過去の様子を公開しているな!よし、ブックマークだ」
土門は自室でひとり、情報収集に勤しむのであった。
どうやら……ステイホームにも大きな利点があるらしい👍