Cloudy




「んー、んー、頭痛が痛いねん」
「おい、大丈夫か、先生？日本語おかしいぜ？」
デスクに突っ伏した状態で眉間に皺を刻んだアリスを、からかいながらも心配そうに火村が声をかける。
両のこめかみを人差し指でぐりぐり押し回すが、ガンガン、ズンズンと頭痛が容赦なく、アリスの頭を襲う。

「あかん……今日はもう無理や。仕事に集中なんてできん。火村、俺、寝るわ。堪忍な」
ふらふらと椅子から立ち上がると、寝室へ向かう。
ボスっ、という音とともにアリスの体がベッドへ沈んだかと思うと、まもなく規則正しい寝息が聞こえてきた。

低気圧が近づいてきているのか、湿気をはらんだ曇天の空模様は、アリスならずとも多くの人に片頭痛を連れてきそうだ。

今夜は愛しい恋人のために腕をふるうことが自分の使命、と心得た火村は、財布を手に買い出しへ出かけることにする。
と、その前に。
アリスの寝室を覗き、ダイブしたまま眠りこける恋人の腹回りにタオルケットをかけることを忘れない。

満漢全席とはいかないが、血流をよくするために、火村は発汗作用のある中華料理を拵えた。
スパイスの香りに刺激されたのか、目を覚ましたアリスは、まだぼーっとしたままソファにぽすんと座ると、ぼんやり火村を見つめている。

「アリス、具合はどうだ？何か飲むか？」
「ん………飲む」
苦笑した火村は、アリスにコップを渡す。
並々と注がれたそれに口をつけて、ん？とアリスが反応する。
「レモン水や…。さっぱりしてうまい！」
「そりゃ良かった。飯もできてるが、食べられるか？」
「おぅ、腹ペコや！」

テーブルに並べられた中華料理の数々に、アリスの瞳がキラキラ輝く。
「君、ほんとにスパダリやな。ほー、デザートはマンゴープリンか？」
「それはコンビニのだ」
「十分や！いっただきまーす♪」
上手いな～、絶妙な辛さや、とほくほく顔で箸を進めるアリス。
そんなアリスを、満たされた表情で火村が見つめる。

「あのー、火村。ちょぉ、恥ずかしいんやけど？」
アリスは箸をおいて、もじもじと手のひらを閉じたり開いたりする。
「何がだ？」
「いや……、そんな愛おしそうな顔で見つめんで！」
目を伏せて、顔を赤らめるアリスの可愛さは破壊的だ。

「無理だな。お前の可愛さは俺には定説だ、マイハニー」
「……さぶいぼ立つわ、ダーリン」
二人でニヤリと笑って、テーブル越しにバードキスを贈り合う。

それは、それで幸せな曇りの日。




fin.