貴方だけ。お前しか…。





半年後。
予想より早く京都府警へ異動の辞令がおりた。

土門は喜ぶ間もなく、急ぎ足で引っ越しの準備を整えた。
なぜならこの頃、土門にはある心配の種が生まれていたからだ。

現在の京都府警捜査一課には、土門と入れ替わるようにやってきた一人の刑事が所属している。
その刑事は蒲原の相棒だという。

蒲原はこれまで通り、科捜研と密接に連携し、捜査を進めている。
自然、相棒の刑事も科捜研と行動を共にすることが多くなる。

そしてその刑事、能代のしろはマリコと共に屋上で密会を重ねていると言うのだ。

そのネタもとは宇佐見だった。
彼から連絡が来たことにまず驚いた土門だったが、内容を聞いて頭が真っ白になった。


――――― 屋上。
そこは自分とマリコにとっては特別な場所だ。
マリコが自分以外の人間、しかも男と二人で佇む様子など見たくも、考えたくもない。


そんなモヤモヤとした気持ちに押されるように、土門は辞令の一週間後には新幹線の中にいた。



のぞみが京都駅のホームに滑り込む。
小さなバッグを片手に改札を出ると、そこには焦がれてやまない……彼女がいた。

「土門さん!!」
「榊!」
マリコは土門の目の前に立ち、真っ直ぐに視線を向ける。

「……おかえりなさい」
その一言だけ言うと、マリコは俯き、ぎゅっと土門の袖をつかんだ。
土門はそんなマリコの髪を撫でる。

いつものように消えたりしない。
温もりも。香りも。感触も。
ようやく、手にすることができた……。

「お疲れさま。どこかでご飯食べて帰る?今日ぐらい奢るわよ?」
「珍しいこともあるもんだ!だが、明日の天気が心配だ。今日は家で食べないか?」
「失礼ね!」
ぷん!と唇を尖らせる、そんな少女じみた仕草さえ愛しく見える。

「でも……そうね。今夜はゆっくりしましょうか……」

そう言うと、マリコは土門にさりげなく寄りそう。
そんな些細なことが嬉しい。
自分の帰還をマリコも待ってくれていた、その事実が何よりも土門の気持ちを上向かせた。



帰宅途中、惣菜と酒を買い込み、二人は土門の新居に向かった。
段ボールは山積みだったが、それ以外はがらんとした部屋に最低限の家具と家電だけが設置されていた。
買ってきたものを適当に広げ、ビールを開ける。

「土門さん、お帰りなさい!」
「ああ、ただいま!」

そして、二人はカチリと飲み口を合わせた。
程よく冷えたビールの喉越しが心地いい。
何より、隣にはマリコがいる。
土門は自然と飲むピッチが上がっていった。


やがて……。
これまでの疲れが出たのだろう。
土門は机に突っ伏し、深い寝息をたて始めた。
マリコはそんな土門をしばらく見つめていたが、やがて寝室に向かう。
そして積まれていた布団の山から毛布を引っ張り出し、土門の肩にそっと掛けた。


そして、マリコは土門の部屋を後にした。
勝手に鍵を拝借して。



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