K、I、S、Se、M





「榊、ホワイトデーだ」
そう言って土門がマリコへ手渡した箱は透明なセロファンで包装され、『アルファベットクッキー 』と書かれた文字が透けて見えた。

「ありがとう!アルファベットクッキー?食べてみてもいいかしら?」
「構わんが……。折角だから、これでクイズに挑戦してみないか?」
「クイズ?」
「そうだ。クイズに正解したら、そのアルファベットは食べていいぞ」
「面白そうね!望むところよ!」
マリコの瞳がキラリと輝く。


「よし。では、第1問。バナナの中に多く含まれる元素の記号は何だ?」
「バナナ……カリウムね、Kよ!」
「正解だ。ほら」
土門は“K”を象ったクッキーをマリコに手渡す。
マリコは早速クッキーを口に入れてみた。
サクサクと軽やかな音と共に消えていく。
「おいしい……」
頬に手を当てる、そんなマリコの様子に、土門も目尻を下げた。

「続けるぞ。第2問。医薬品、色素、写真感光剤に使われる元素の記号とは何だ?」
「Iね。ヨウソよ」
マリコはふふんっ!と得意げに答える。
「正解」
“I”字型の細長いクッキーもまた消えていく。

「次は……、神奈川県箱根町にある大涌谷といえば?有名な元素記号だな。わかるか?
「もちろん!温泉の硫黄。Sね」
「当りだ」
今度はくねったS字のクッキーがマリコの手のひらに乗せられた。

「次が最後だ。今度は2問答えてもらう。両方正解が条件だ。いいか?」
「ええ!」
「では。電子材料、触媒に使われる元素の記号。ヒントは2文字で、最初の1文字はさっきと同じだ。どうだ?」
「ええと…。1文字目は同じなのよね?……わかった!セレニウム!Seよ」

「ふむ。もう1問は昔の乾電池の元素記号、その最初の1文字は?」
「マンガンだから…Mね!」
「正解だ!」

だが、土門からクッキーは来ない。
「土門さん?」
マリコは首を傾げる。
「最後のクッキーはサイズがでかいんだ。簡単には渡せん。そうだな……今まで答えたアルファベットの意味が分かったら渡してやる。ヒントはアナグラムだ」
「アナグラム…ということは並び替えるのよね?ええと…、最初がKだったわよねぇ……」
うーんとマリコは記憶を辿って思い出そうとする。

しかし。

「時間切れだ」
「ええ!もう?答えは何なの?」
マリコはむっと唇を尖らせる。

「答えか?」
土門はそんなマリコの様子に笑いながら、柔らかな頬に手を伸ばし、少しだけ上を向かせる。

「答えはな……」
土門の親指が、すっとマリコの唇をなぞる。


―――――『kiss me』


クッキーよりも、ずっと甘いホワイトデーを恋人あなたへ。




fin.



***おまけ***

「土門さん、最後の問題のクッキーはくれないの?」
「そうだったな。これだ」
「!?」
マリコが渡されたのは、手のひらほどもある♡形のクッキー。
ピンクのアイシングが、かわいらしいことこの上ない。

「どうやって食べたらいいのかしら……?」
う~んと悩むマリコからクッキーを受け取ると、土門は思い切りよくパキン!と割った。
「あ~!?♡が……」
一足先にパクリと口に入れた土門は、『お前も食べろ』と残りの半分をマリコへ渡す。
そして、マリコの口の中へクッキーが消えたことを確認すると……。

「心配するな。戻す方法はお前がクリスマスに教えてくれただろう?」
そう言って、ニヤリと笑った土門の顔が再びマリコへと近づく……。

割れた♡の修復方法は、たった一つだ。





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