すまん、榊
連日に渡り国内を騒然とさせている幼児誘拐殺人事件。
模倣犯による類似事件まで引き起こしたこの事件解決に、警察は威信をかけ、早くから総力戦で挑んでいた。
全国の警察から精鋭の捜査員たちが召集され、大がかりな捜査本部が設置された。
京都府警から白羽の矢が立ったのは土門を含めた4名。
彼らは出向の通達が下りたその足で、すぐに現地へ向かった。
それからすでに2ヶ月。
警察の出方をうかがっているのか、犯人は沈黙を保っている。
とはいえ、肝心の犯人へ繋がる有力な証拠はなかなか挙がってはこず、捜査員たちにも焦りと疲労の色が濃くなっていった。
『事件の進展はどう?』
マリコは鑑定結果を待つ間、暫くぶりに土門へメッセージを送信してみた。
この前連絡したのはいつだったかしら?、と履歴に目を通すと、もう2週間も前だった。
その時も土門の体調を気遣うメッセージの内容に、ただ『心配するな』の一言が送られてきただけだった。
結局、1日、2日と経っても送ったメッセージに既読が着くことはなかった。
そしてそのまま、土門からの返信は途絶え続けた。
そんななか、ようやく事件が動いたのは、さらに2週間後だった。
地元の大学生が一連の事件の犯人として逮捕されたのだ。
マスコミはこぞってこのニュースを取り上げた。
捜査開始からちょうど3ヶ月が経過していた。
「マリコふぁん、元気ないふぁねぇ」
宇佐見の淹れたお茶を片手に、自身の土産のロールケーキを頬張りつつ、早月はマリコの部屋へ目を向ける。
ゴクンとケーキを飲み干し、ズズッとお茶を啜ってから、メンバーに問いかける。
「土門さん、まだなの?」
周りに居並ぶメンバーたちも互いに顔を見合わせるだけで、誰も答えない。
事件が解決して後、さらに3週間を過ぎても土門は戻って来てはいない。
土門と同じように出向していた残りの刑事たちは、残務整理が終わり次第、一人、また一人と戻っている。
皆、口にこそ出さないが、明らかに最近のマリコが塞ぎがちであることに気づいていた。
仕事中はいいのだ。
いつもと変わらず淡々と、時には無茶ぶりをしながらも鑑定をこなしている。
ただ……。
今のような休憩時間でも、マリコは研究室に籠ったままのことが増えた。
そして、口数も少なくなり、気づけばスマホを気にしている。
何を待っているのか、誰の目にも明らかだった。
そんなマリコに、早月は一度たずねてみたことがある。
「マリコさん。土門さんと、連絡取ってるの?」
しかし、マリコは無言でただ首を振るばかりだった。
土門が居なくなってから間もなく4ヶ月が経とうとしていた。
これまでも土門に会えないことは度々あった。
けれど、ここまで長い間音信不通になったのは初めてだ。
捜査が忙しいのだろう。
もしかしたら、外部との連絡を控えるようにしているのかもしれない。
マリコの想像ばかりが膨らむうちに、いつしか季節さえも移り変わろうとしていた。
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