不屈の男





「土門さん、リハビリ頑張ってるね~」
「ええ。次回から歩行訓練を始めるそうですよ」

宇佐見と呂太の会話が聞こえたマリコは首を捻った。

土門が入院してからというもの。
やれ資料を渡して来いやら、やれ捜査状況の報告へ行ってこいと、本部長、刑事部長に何らかの用事を言いつけられては、マリコは土門の見舞いに通っている。

しかしマリコは、土門がリハビリする姿も進捗具合も聞いたことがない。
リハビリに付き合うと言っても、いつもうまくはぐらかされてしまう。
女の自分では役に立たないと思われているのかもしれない、マリコはずっとそんな風に思っていた。


「そうねー、この前様子を見たら大分筋力も戻ってきてた。さすがの回復力ね!」
「私も見ました!すごい集中してますよね!」

「……あの、早月先生に亜美ちゃん」

マリコはいてもたってもいられず、話に割り込んだ。

「はい?」
「何、マリコさん?」
「先生も、亜美ちゃんも土門さんのリハビリ見に行ってるの?」
「はい、呂太くんたちと一緒に」
「うん、時々ね。すっごく努力してるわね、土門さん」

「……ええ」
マリコは曖昧に微笑んだ。
思い違いではない。
自分だけが避けられているようだ。
『でも何故?』
マリコは思案した。



その日の夕方、マリコが土門の病室へ顔を出すと、丁度夕食の最中だった。

「ども……?」
声をかけようとして、マリコはとどまった。

土門が皿を持ち上げた拍子に病衣から肘までが露になった。
その前腕には大きな鬱血の痕が幾つもあり、痛々しい色合いをしていた。
マリコが見舞いに来ると、土門はいつも病衣の上に羽織ものを着用していた。
そのため、今までその怪我に気づかなかったのだ。

マリコが病室の入り口でそっと土門の様子を見ていると、丁度前方の廊下に土門の担当の理学療法士がいるのを見つけた。
マリコは慌ててその人物を追いかけ、呼び止めた。

「あの、すみません!」




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