ファイター





屋上を吹き抜ける風が、終わりのときを伝えるように二人の頬を掠める。
自分を取り戻したマリコは、土門からそっと離れると、微笑んだ。
そして、背を向ける。

「榊!」
マリコは、ピタリと足を止める。

「振り返るなよ……」
その言葉に拳を握りしめ、肩を小さく震わせる。
「分かってる。でも私、そんなに強くないわ……」
「ああ。だが、弱くもないだろう?」

マリコは目を見開く。
土門の見えない手に背中を押された気がした。

「………行くわ」
そして再びマリコは歩きだす。
けして振り返らず、歩みを止めず。

土門は引き裂かれ、離れていく半身マリコを今はただ見送るしかない。

しかし。
――― 取り戻す。

その決意は一秒ごとに強くなり、土門の新たな軸となる。

「待っていろ。どれだけ時間がかかろうとも……必ずお前のもとに戻る」



マリコの姿が屋上から消えるとすぐに、土門の胸ポケットでスマホが震えた。
開いてみれば……。

『待ってるから』

何をでもなく、誰をでもない。
ただシンプルなその一言を、土門は胸に刻む。

返信は………しない。

するときは、自分の口で直接伝える……マリコへの想いを。


『榊、待っていろ』




fin.



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