日常の一コマシリーズ
今日は11月11日……例の日だ。
「土門さーん、ポッキーいかがですか?」
交通安全課の婦警が、小分けされたポッキーの袋を差し出す。
「いや、もうもらった」
「え?なに味ですか?」
「はっ?普通のチョコレートのだが?」
「これは、アーモンドクランチがコーティングされた別の種類ですよ、どうぞ!」
「悪いが、そんなに食えん」
「あ!榊さんから沢山貰ったんですね?」
「いや、榊からは貰っていないが……」
「あれ?さっき大袋に入ったポッキー持っているの見かけましたよ?てっきり榊さんも配っているのかと……」
「なにっ!」
カッ!と見開いた目に睨まれて、婦警はひっ!と後ずさる。
「いや、すまん。どこで配っているか知ってるか?」
「たぶん、正面玄関だと思います」
土門は『正面げん……』まで聞いた時点ですでに席を立ち、目的地を目指す。
「みんな、今日は見学ありがとう。気を付けて帰ってね」
「はーい!」
元気一杯に返事をすると、おしくらまんじゅうのように、小学生がマリコを取り囲む。
京都府警へ社会科見学に来ていた小学生に、マリコは『ポリスまろん』と『ポリスみやこ』が書かれた下敷きと小袋のポッキーを配っている。
「お前、何してんだ?」
土門が呆れ顔で近づく。
「あ、土門さん。お手伝いよ」
「ねーねー、お姉さん」
「なあに?」
「ポッキーゲームって知ってる?」
「ポッキーゲーム?どんなゲームなの?」
「知らないの?じゃあさ、僕とやってみようよ」
一人の少年がニッコリと無垢な笑顔をマリコへ向ける。
しかし、当然……。
「駄目だ、駄目だ!!!」
「土門さん?」
マリコが訝しげな目を向ける。
「あ、いや、えーと、所長が呼んでいたから、捜しに来たんだ!」
「土門さんが?わざわざ??」
「いいから、早く戻れ!」
「……変な土門さん」
子どもたちへの粗品を配り終えたマリコは大人しく科捜研へ戻っていった。
ほっとした表情でそれを見送る土門を、じぃーと小さな瞳が見上げる。
「おじさん、もしかしてさあ……」
榊はお姉さんで、俺はおじさんか、と軽く落胆しつつ、土門は少年に向かって言った。
「ポッキーゲームはもう少し大人になってからにしておいた方がいいぞ?」
「おじさん……。古い人なんだね」
「なっ!?」
少年はやれやれと両手を広げると、首を振りながら帰っていった。
その晩、土門が帰宅すると、テーブルの上には昼間のポッキーが積まれていた。
「これ、どうしたんだ?」
「あ、お帰りなさい。来られなかった小学校があったらしくて、余りを渡されたのよ」
そう言うと、一袋手に取り、マリコはピリッと封を開ける。
「そういえは、ポッキーゲーム……土門さんは知ってるの?」
「まあな。知りたいか?」
「え?どっちでも……」
………………良かったのだが。
土門はポッキーを取り出すと、マリコにくわえさせた。
「?」
「食べていいぞ」
マリコは頷くと、一口かじる。
――― サクッ。
少しずつチョコレートが消えていく。
そして反対側のビスケット部分に土門が食いついた。
――― カリッ。
「!?」
驚いたマリコは口を離そうとする。
しかし、一瞬早く土門がその頬を捕まえた。
そして土門はそのまま食べ進め、マリコの唇の一歩手前で止まる。
ようやく意図に気づいたマリコは、顔を真っ赤に染め、ぎゅっと目を閉じた。
土門はそんなマリコの様子を見て、目を細める。
最後のひと欠片を口に入れると、ポッキーとは違う、柔らかくて温かい感触に触れた。
「わかったか?」
「………」
「もう一度、説明が必要か?」
マリコはぶんぶんと首を振る。
「そうか。そうだな……」
土門は腕を組んで、うんうんと何やら一人で納得している。
「?」
「ポッキーなんて、まどろこしくて邪魔なだけだ」
「ちょっ!」
くいっと顎を持ち上げられ、少し乱暴に唇を奪われる。
マリコの息が上がる頃、ようやく土門はマリコを解放した。
「今日のお前は、甘いチョコレート味だな?」
「………」
笑いを含んだ土門の台詞に、マリコは恥ずかしくて顔をあげることもできない。
「もっと味わいたいんだが。………ダメか?」
耳元で囁かれる言葉と声音に、マリコの理性もチョコレートのようにトロリと溶けていった……。
ポッキーの日のムフフ♡な一コマである。
fin.
■■■ どもマリに、一コマな質問 ■■■
*管…わたくし、管理人でーす(^^)/
(管)土門さん、マリコさん、お土産でーす。スキーに行ってきましたぁ♪
どーん!と大きな箱を置く。
地域限定と銘打たれたそれは、ご当地食材を使ったロングポッキーだ。
(マ)(土)…………
土門とマリコは顔を見合わせる。
(管)どうかしました?
(土)いや
(マ)管理人さん、ありがとう
(管)どういたしまして!あ、たしか…うん、大丈夫ですね
(土)何がだ?
(管)賞味期限ですよ。できるだけ先のを選んできたので、11月11日までは持ちますから(//∇//)♪
(マ)!?
(土)こんなでかいの無理だろう!
(管)何がどう無理なのかは知りませんけどー?(* ̄∇ ̄*)ポッキーの日まで残ってたら!……二人で食べてくださいね!(ムフフ♥)