日常の一コマシリーズ





シャーと軽快なギアの音を響かせて、マリコは自転車のペダルを漕ぎ続ける。
真っ白なダウンに、同じく白いニット帽とマフラー、そして手袋まで身につけていても、刺すような風の冷たさに、マリコの頬はうっすら赤らむ。

「はぁ…。やっぱりこの時期は自転車辞めようかしら……」

府警につく頃には、体はポカポカ温まるが、外気に触れる顔回りはキンキンに冷えきり、痛いほどだ。

「今、出勤か?」
「土門さん!おはよう」
「ああ。………なんだ?」

土門はマリコの視線に気づいて、眉を持ち上げる。

「いいわねー、車は。温かそう……」
モコモコに着込んだ自分とはちがい、コート一枚羽織っただけの土門が羨ましい。

「だったら冬の間だけでも家から通えばいいだろう?送迎つきだぞ?」
本気なのかふざけているのか、土門はニヤニヤと愉快そうだ。
「なっ、こんなところで変なこと言わないで!」

朝の始業時刻15分前の正面玄関に、二人は立っているのだ。
すれ違いざまに聞いてしまった者たちは足をとめ、まじまじと二人を見て、それから慌てて己の所属部署へ向かう。

「絶対、誤解されてるわ……」
ため息をつくマリコとは逆に、土門は“してやったり”といった表情だ。

全身真っ白な出で立ちに、うっすら上気した頬のマリコは、それだけで人目を惹く。
良からぬ芽は早く摘むに越したことはないのだ。

「ほら、俺たちも遅刻だぞ」
土門はマリコの背後に立つと、軽く背中を押す。
そのとき、真っ赤な耳の裏側に気づき、触れてみた。

「おい、氷みたいだな!」
驚いた土門は、思わずマリコの両耳を手のひらで覆う。
じんわり広がる温もりの心地よさにマリコは目を閉じた。

「あったかい……」
ほう…と吐息とともに漏れた言葉に、土門は微笑む。
片方の耳だけ手をはずすと。

「明日の朝は送ってやるから、今夜は帰る前に連絡しろ」

ないしょ話のように告げられた言葉に、マリコはうなずく。
一層頬の赤みが増したことに気づいたのは、きっと土門だけだろう。



「マ、マリコくんたち、早くしてくれないかなぁ。所長の僕が遅刻するわけにはいかないんだけど……」
ヘルメットを抱き締め、柱の影で曰野はため息をつく。
いつもは遅れがちな自分の腕時計が、今日ばかりは進んでいることを願いながら……。


始業時刻前の一コマである。




fin.



■■■ どもマリに、一コマな質問 ■■■
*管…わたくし、管理人でーす(^^)/


(管)おや、マリコさん、イヤーマフ買われたんですね?
(マ)ええ。耳が冷たい、って話してたら、呂太くんがプレゼントしてくれたの!

(管)良かったですね~(^^)ピンク色で可愛いですよ♥
(マ)ありがとう…
(土)(頬を染めるな、頬を!)橋口のやつ、余計なことしやがって…ブツブツ

(管)で、なんで土門さんはご機嫌斜めなんですか?
(土)別に機嫌悪くなんて、ないぞ!o(*`ω´*)o
(管)いや、どうみても悪いでしょ?(^_^;)
(土)べ、べつに……耳当てのせいで、あいつが自転車通勤を続ける気になったことにイラついてる、とかじゃないぞ!
(管)……つまり、予定していたマリコさんとのあま~いチョメチョメが減ってしまったために、機嫌が悪いと?(笑)
(土)知らん!

(管)でも、ピンクのイヤーマフ、マリコさんにお似合いですよね?
(土)それは!……まぁ、似合っているし、か、かわ……と思うが
(管)ん?なんです?聞こえませんでした
(土)な、何でもない!おい、榊、行くぞ!
(マ)ちょ、ちょっと待って!……………え?

土門は手を伸ばし、ひょいとマリコからイヤーマフを取り上げる。
そして、小さな耳に何事が呟く。
土門は再び、イヤーマフを戻した。

(管)マリコさん、真っ赤っか(笑)『か、かわ……』の続きでも囁かれちゃったのかもしれませんね~。ご馳走さまです(//∇//)♥




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