日常の一コマシリーズ
108の除夜の鐘が鳴り出したころ、二人は参拝客の行列に並び始めた。
「お前が夜中に初詣に誘うなんて珍しいな。寒がりのくせに……」
「一度来てみたかったの。今年はちょうど休みに当たったし」
「寒くないのか?」
土門は風避けのため、マリコに少し身を寄せる。
「うん。平気……」
マリコはずっと赤い顔をしており、今日は少し息づかいが荒い。
人混みだからかと思ったが、土門は気になり、マリコの頬に手を当てた。
「土門さん?」
「………」
土門は突如マリコの手をひくと、行列から脇道に逸れた。
そしてマリコの額に触れる。
「何で黙ってた?」
土門の目が厳しくなる。
「……だって、どうしても来たかったんだもの」
「別の日でもいいだろう?」
「この次、いつ一緒に来れるかわからないじゃない……」
マリコは俯く。
「とにかく帰るぞ」
「イヤ!」
「榊……」
頭上から聞こえた土門の困惑した声に、マリコは鼻の奥がつーんとなるのを感じた。
熱のせいだろう…こんなことで泣きたい気持ちになるなんて。
マリコは嘆息した。
「……ワガママね。ごめんなさい。帰るわ」
よほど辛かったのか、マリコは土門の車に乗り込むと直ぐに目を閉じ、そのまま眠ってしまった。
土門はマリコの家には向かわず、自分のマンションへと車を走らせた。
浅い呼吸を繰り返すマリコを背負い、部屋につくと、そのままベッドにマリコを横たえた。
手早く氷枕を用意し、首の後ろに差し込んでやる。
気持ちがいいのか、マリコは『ん…』と声を洩らし、うっすら目を開けた。
「……ど、もん、さん?」
「まだ熱が高い。寝てろ」
「ん…。でも喉が乾いて……」
土門はすぐにキッチンからスポーツドリンクのペットボトルを持ってくると、マリコの背を支え、起き上がらせる。
「ほら」
土門がペットボトルを差し出す。
しかし熱が高いためかマリコは腕に力が入らず、受け取ることができない。
「仕方がないな……」
土門はドリンクを口に含むと、マリコの口内へと移す。
「ふっ…ん、や……」
マリコは弱々しく抵抗する。
その、庇護欲をそそるマリコの様子に、土門の脳裏を良からぬ思いが過る。
「ども…さん、うつっちゃう……」
小さな声に土門は、はっとし、
「大丈夫だ。もしうつったら、今度はお前が看病してくれ」
笑う土門に、マリコも目を細めると、とろとろとその瞼がおりていく。
ものの5分も経たないうちに、マリコは寝息を立てはじめた。
先程より落ち着いた息づかいに、土門はほっと胸を撫で下ろす。
そして、今のうちに着替えの用意をしてやろうと立ち上がった。
「……?」
しかし、土門はあげた腰を再び下ろす。
「まったく、お前ってやつは……」
言葉とは裏腹に、『愛おしくてたまらない』といった声音でマリコの髪を撫でる。
マリコの右手は、土門のセーターの裾をしっかりと握りしめていた。
しっとり、新年の一コマである。
fin.
■■■ どもマリに、一コマな質問 ■■■
*管…わたくし、管理人でーす(^^)/
(管)マリコさんの具合、いかがですか?
(土)ああ。少し脱水症状が出ていたが、大分良くなった
(管)良かったぁ…。そういえば、その後で、土門さんも風邪をひかれたと伺いましたが?
(土)いや。それももう大丈夫だ
(管)看病疲れ、ですかね?
(土)さ、さあな?
(管)それとも、うつるような…何か原因でも?(ちらり)
(土)………………………………ないな
(ぜーったい、嘘だなぁ)
(管)土門さん、目が泳いでますよ?
(土)き、気のせいだ!
(管)そうですかぁ?まあ…、そういうことにしておきますね
(土)おう
(管)では。あっ。最後に、一つ。よろしいですか?
(土)お前、誰だ?
(管)高熱のマリコさんの着替えは、やはり土門さんが?
(土)ば、ば、ば、ばか言うな!やりたかったが、やってないぞ!断じて、やってない!
(管)ほほう…(こりゃ、やってるな)
(土)くだらんこと言ってる前に、やることがあるだろうが!
(管)あ。そうでした!
皆さま、明けましておめでとうございますm(_ _)m
今後、お二人の関係がどうなってしまうのか…、運命の日まであとわずかですね。
ですが、まずは新しい一年の皆さまのご健康とご多幸をお祈りいたします。
本年もどうぞよろしくお願いいたします。
(土)最後まで気を揉ませてすまんな。だが、榊を大切に思う気持ちに微塵のブレもない。それだけは、伝えさせてもらう…。
(管)マリコさんからもメッセージを預かってるんですけど……
(土)なんだ?
(管)これは……土門さん宛ですね(笑)
(土)俺宛?
(管)はい。だって……
『信じて、待ってる』
(管)ですよ?
(土)あいつ……
(管)早く戻ってあげてください
(土)おう。すまん
(管)マリコさんのもとへと走る土門さんの後ろ姿。これからも見続けられるように祈ってます…