Pocky Day(火アリVer.)
「アリス」
「んんん?」
呼ばれて振り向くと、薄く開いた唇に細長いものが差し込まれた。
「やるよ」
「なんや……ポッキー?」
サク、サクッと軽い音をたてて、ポッキーはアリス口の中へ消えていく。
「何だか知らないが、学生にポッキーを貰った」
紙袋に軽く一杯分のポッキーをテーブルに拡げる。
「なんや…これ?なんでポッキー……あぁっ!?今日、何日や?」
「11日だ」
「あー……そういうわけか。ポッキーの日や」
「ポッキーの日?」
「ゾロ目やろ?」
ああ、と火村はまるで興味のない答えを返す。
そんな火村に、アリスはポッキーゲームについて話してやった。
「せやから、ポッキーくれた女の子らは、お前とのポッキーゲームを期待してたんちゃう?」
「俺には迷惑なだけだ」
「ひっどい先生やな」
アリスはいつもより昏い瞳で苦笑する。
しかし、火村はそれに気付かない。
「お前となら、大歓迎だけどな?」
「おっ!奇遇やな。俺もそう思っとった」
挑発するように、アリスがニヤリと嗤う。
「男に二言はないな?」
「もちろんや」
火村は箱からポッキーを取り出すと、自分の唇に挟んだ。
肉厚のその唇がポッキーをくわえ、少し突き出した様は…『セクシーやな』とアリスの目に映る。
そして、それに引き寄せられるように、アリスは反対側に食いついた。
サク、サク、サクッ。
――― ちゅっ。
どうせアリスはすぐに離れるだろうと思っていた火村は、驚きに目を開く。
なぜなら、アリスの唇は離れるどころか、さらに深く火村を貪ろうと動き出したからだ。
アリスの舌が火村の口内に忍び込む。
「……ふぅん」
鼻を鳴らし、自分を追いたてるアリスの舌を、火村は受け入れる。
そして徐々に今度は火村がアリスを侵食していく。
「はぁ」
ようやく唇を話すと、アリスが吐息をついた。
「アリス。何かあったのか?」
「なんでや?」
「お前が積極的なのは、珍しいからな」
「……」
アリスはふい、と火村から視線を逸らす。
「アリス?」
「……」
「…アリス」
なんでそんなに愛おしい目で見るのか…。
なんでそんなに優しく自分の名前を呼ぶのか…。
「あー!なんやの?その声ムカツク!!」
「………」
アリスは彷徨わせていた視線を火村へと戻した。
「ムカツクけど…、もっと………呼んでや」
目の縁を赤く染め、アリスの声はだんだん小さくなる。
「アリス、アリス……」
「火村…… 」
たまらず、アリスは火村の首に顔をうずめた。
「アリス、俺はお前を不安にさせるようなことをしたのか?」
さすがに火村も、アリスの様子がおかしいことに気づいた。
「リップ……」
「?」
「ジャケットのポケットに女もんのリップが入っとった…… 」
俯き、言いづらそうにアリスは口を開く。
「……くっ」
「火村?」
「………あはははっ」
「なっ!失礼なやっちゃな! 」
よく考えれば、こんなに爆笑する火村は珍しいのだが、頭に血がのぼったアリスはそんなことにも気づかない。
「ははは…すまない。あれは、ばーちゃんからもらったんだ」
「はっ?ばーちゃん??嘘も休み休み…」
「本当だ。駅前で試供品を配っていたらしい。何本かもらったからと分けてくれたんだ」
「……………なんや…めっちゃ、ハズいわ」
途端にアリスは耳まで赤くなる。
両手で顔を覆い、火村の視線から隠れようとする。
「可愛いな、アリス。お前を不安にさせた責任は一晩かけて償わせてもらおうか?」
「え?いや…そんな気にせんで……」
ええから、と返す前に、アリスの唇はもう塞がれてしまった。
今夜の二人は、ほんのり甘いチョコレートの味がする。
fin.
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