お嬢の事件簿
「私、いつも思うんです。後味の悪い事件を捜査するたび、北海道の自然て素晴らしいなって。雄大な自然は、ささくれた気持ちを癒してくれる……土門さんと榊さんにもぜひ味わってもらいたいです!」
「そうね。行ってみたいわ…」
「ああ」
「お待ちしてますからね」
そんな話をしているのは、科捜研へ向かう途中の廊下だ。
事件が無事解決したため、聖子は早々に北海道へ戻ることになった。
お世話になった科捜研の皆さんにご挨拶を!という聖子の希望で、わずかな時間だが、科捜研へと足を向けた。
「みなさん、大変お世話になりました!」
「こちらこそ、お気をつけて」
「今度は北海道のお土産持ってきてね♪」
「ちょっと、呂太くん!」
「あの」
「はい?」
聖子は宇佐見に声をかける。
「風丘先生によろしくお伝え願えますか?」
「はぁ。なぜ、私に?」
「榊さんを除けば、宇佐見さんだけが、私と風丘先生との違いに気づいていたように思えたので……あれ?違いましたか?」
「……いいえ。風丘先生にはお伝えしておきます」
「お願いします。……宇佐見さん、私、婚約者がいるんです」
「?」
「風丘先生にも、そういう人がいらっしゃるんでしょうか?」
「…さあ。私には……」
「同じ顔だなんて、何だか他人には思えませんから。風丘先生にも幸せになってほしいんですよね……」
宇佐見にニッコリ微笑むと、聖子はヒラヒラと手を振って科捜研を後にした。
そんな彼女を皆で見送りながら、明日には手土産を提げて訪れるはずの、もう一人の彼女のために……。
「新しいお茶を見繕いに行きましょうか……」
小さな独り言は風が運んでいった。
そして、同じ風がそよぐ屋上には二人の姿があった。
「そういえば、お前。花島さんに会ったときも、俺とは違うってすぐに気づいたらしいな?」
「そうだったかしら…?」
「所長の言う通り、本質を見抜く力があるのかもしれないな。何せ……そのデカイ目だ」
そう言って土門はマリコの鼻先数センチまで顔を近づける。
「わ、悪かったわね!大きい目で…」
マリコは思わず顎を引き、赤みの差す顔で土門へ言い返す。
「別に悪くはないさ。だが……」
土門は更に顔を近づける。
互いの息づかいまで聞こえそうだ。
「そんな顔の時に、俺以外の男をその瞳に映すなよ?」
すっとマリコの頬と耳たぶに触れると、土門は『じゃあな』と一足先に戻っていった。
残されたマリコは、ますます頬を赤く染める。
そして、土門は。
「さすがに、今のは気障だよな……」
こちらも人知れず、顔を赤くするのだった。
fin.
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