お嬢の事件簿





土門と聖子が科捜研へ着くと、予め土門から連絡を受けていたマリコが準備を整え二人を待っていた。
「榊さん、お願いします!」
「お預かりします」
亜美ちゃん、と聖子から預かったDVDを渡す。
「再生します」

中央のモニターに扇央堂の様子が映し出される。
ちょうど被害者が店主から紙袋を受け取っているところだ。
その直後、パーカーを羽織り、小さな風呂敷包みを抱えた若い女性が来店した。
真っ直ぐに店主のもとへ向かうと、何事かたずねている。
店主が頭を下げながら、被害者の方へ手をかざすと、女性は慌てた様子で被害者へ駆け寄った。
そのまま数分間、押し問答が続いたが、とうとう被害者が女性を振り切るように店から出ていった。
そして、後を追うように女性も映像から消えた。

「この女性と、公衆トイレの防犯カメラに映っていた女性、同一人物か鑑定できますか?」
聖子は亜美へたずねる。
「公衆トイレの映像には顔が映っていないので、顔認証はできませんね…」
そうですか……と、聖子は落胆する。

「でも……」
マリコは土門へ目配せを送ると、聖子に視線を合わせた。

「歩様認証が使えます!」
「歩様認証?」
「ええ。人の歩く早さや癖などから、個人を識別するシステムです」
「そうですか!では早速お願いします!」

マリコと亜美がそれぞれ女性の歩く映像をピックアップし、鑑定にかける。
弾き出された結果は、90パーセントの確立で一致した。

「間違いないわ。同一人物ね」
「よし。扇央堂の映像には顔が映っていたな?」
「亜美ちゃん、顔認証にかけてみて」
「了解です!」
「この女性が犯人なのかしら…」
「おそらくな。だが、決定的な物証が出ない限り、藤倉刑事部長は納得しないだろう……」
「犯人の持ち帰った扇子が手にはいるといいんだけれど……」


「出ました!」
亜美が勢いよく立ち上がる。
「3年前に補導歴がありました」

高嶋梨央たかしまりお、か。すぐにガサ状を用意してもらう。榊たちも臨場してくれ」
「わかったわ!」
土門と聖子は足早に科捜研を後にする。
背後から、『呂太くん、行くわよ!』とマリコの叫ぶ声が聞こえた。



高嶋梨央は、祇園で働く芸妓だった。
梨央自身がお座敷へ出ている最中だったため、大家立ち会いのもと、家宅捜索が行われた。
あらゆる引き出し、細かな隙間にいたるまで大勢の捜査員が捜索を行ったが、問題の扇子は発見できなかった。

「ねえ、土門さん。この辺りの可燃ごみはいつかしら?」
「ちょっと待ってろ」
土門は玄関の外で不安そうにこちらを見ている大家に近づいていった。

「今日らしいぞ?」
「だったら、すぐにゴミを押収して。扇子はなくても、紙袋があるかもしれないわ!」
「わかった!」

「榊さん」
土門と入れ違いに、玄関の聖子がマリコを呼ぶ。
「はい?」
「このパンプス……」
「押収して、鑑定してみましょう!」
靴箱に並んだパンプスを押収ボックスへ入れると、マリコたちは科捜研へ戻った。




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