お嬢の事件簿





駐車場へと向かう道すがら、聖子は隣を歩く土門を見上げた。
「土門さんとマリコさんは良いパートナーですね」
聖子はあえて明るく問いかける。

「ずいぶん長いこと一緒に働いていますから」
「それだけですか?」
「どういう意味ですか?」
土門は質問に質問を返す。

「深い意味はないです。ただお二人の信頼感の間には、もう少し別の理由もあるように思えたので…」
「………」
口を閉ざしてしまった土門を見て、“意外に分かりやすい人なのね”と聖子は綻びそうになる口元を必死に引き締める。

「心から信頼できる人がいて、その人と同じ目標に向かっていけるなら、これほど充実した人生はないと思いませんか?」
「五条さんにはそういう人が…?」
「いますよ。でも残念ながら、職業はまるで違いますけど」
そう言って髪をかきあげる聖子の左手には、たしかに煌めく印があった。




扇央堂の暖簾をくぐり、店主を呼び出した。
被害者の写真を見せると、運よく覚えていると言う。

「よく覚えていますよ。このお客さま、後から来られたお客さまとトラブルになってしまいましたから」
「トラブルって何ですか?」
聖子は身を乗り出す。

「このお客さまにお売りした扇子は限定品の最後の一つでした。ですが後から来られた方もそれを購入されるおつもりだったようで……。譲って欲しいと何度も頼んでいました」
「だが、被害者はそれを断ったと?」
「はい。それは気の毒な落ち込みようでした」
店主はその時の様子を思い出したのか、目を細めて土門に答えた。

「そのお客さんて、どんな人ですか?男性?女性??」
「女性ですよ。まだお若くてお綺麗な方でした。もしかすると芸妓さんかもしれません」
「なぜ、そう思ったんです?」
「普通の服装はされていましたが、風呂敷包みをお持ちでしたので…」
「なるほど。ご店主。あの防犯カメラの映像、見せてもらえますか?」
土門はレジ近くに設置されたカメラを見つけ、指差した。


土門と聖子は奥の事務所で映像を確認する。
画像の端ギリギリのところに、話し合う二人の姿が映っていた。
女性は被害者の紙袋を指差し、しきりに何事か話している。
しかし、被害者の方は首を振るばかりだ。
しばらくすると、追いすがるように手を伸ばす女性を振り切って被害者は画面から消えた。

「土門さん、この女性の服装……」
「パーカーですね。足元は見えないが……」
「榊さんたちに、解析してもらいましょう!」
「そうですね。ご店主、この映像をお借りできますか?」



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