お嬢の事件簿





「戻りました」
蒲原が捜査本部へ入ると、あとに続く聖子を見て、一瞬周囲がざわめいた。
「北海道警の五条警部補です」
「五条です」
蒲原が紹介すると、いっそうざわめきが大きくなった。

聖子は苦笑するしかない。
よそ者な上に、女性というだけでもアウェー感満載なのに、そっくりさんがいるとなればこんな反応も仕方ないだろう。


「静かにしろ!」
一人の恫喝に、一瞬にして場が静まり返る。
おや、と聖子は今声をあげた人物に目を向けた。

「五條さん、申し訳ない。自分は土門です。よろしく」
なるほど、この人物が捜査本部の実質的なリーダーらしいと、聖子は本能で嗅ぎ分けた。
「いいえ。私のそっくりさんの話は、こちらの蒲原刑事にお聞きしました。これも何かのご縁かもしれませんね。みなさん、どうぞよろしくお願いします!」
人懐っこい笑みと、明るくハキハキとした物言いは聖子の利点だ。
はじめての場所でもすぐに好意を持って受け入れてもらえる。


「では、お互いの情報共有といきましょうか?」
土門の一言で、全員が土門と聖子を中心に集まる。
見事な統率力に聖子は舌を巻いた。

「先ほど蒲原さんから概略については聞いています。こちらの持っている情報と大きな齟齬はありませんでした」
言われて蒲原は思わず聖子の顔を見た。
捜査本部へ向かうまでのあの短時間で、そこまでチェックしていたのかと感心する。

「そうですか。それなら手間は省ける。現場を確認しますか?」
「時間がありませんので、それは後ほど。今は検死結果と、被害者の足取り、防犯カメラの情報が欲しいです」
「わかりました。では科捜研から説明させましょう」

土門は聖子を連れ、科捜研へ向かった。



「ほんと?ほんとにお菓子の先生じゃないの?こんなにそっくりなのに??」
科捜研へやってきた聖子を見て、呂太はその周囲をぐるぐる回りながら首を傾げる。

「呂太くん、失礼だから!」
亜美に白衣を引っ張られ、危うくバランスを崩しそうになる。
「もー、亜美さん、危ないよ」
「ふざけてないで、マリコくんと宇佐見くん、呼んできて!」
日野の言葉に、はーいと二人は答え、それぞれ研究室の扉をノックする。

はじめに現れた宇佐見は、聖子を見て、みんなと同じように目を丸くして驚いていたが、すぐにいつもの様子に戻った。
一方、後からやってきたマリコは……。

「あら?お客様?」
この反応に聖子を含め、全員が目を見開いた。

「やだなー、マリコさん。お菓子の先生だよ」
とっさにいたずらを思い付いた呂太が、にんまりと笑って言った。
しかし。

「何言ってるの?早月先生じゃないわよ?」
「なんでそう思う?」
土門も興味をひかれ、マリコへたずねた。
「土門さんまで……。だって早月先生とは全然違うじゃない」
当たり前のように答えるマリコ。

「マリコくんには人の外見に惑わされることなく、本質を見抜く力があるんだろうね」
日野が感心したようにいう。
「確かに…。早月先生がショートカットになっても気づかなかったのに、聖子さんとの違いはわかるんだ。マリコさん、スゴい!」
亜美は心底感心していた。


「まぁ、その件はまた後日だ。検死報告書は?」
「さっき早月先生が届けてくれたわ」
はい、とマリコが土門へ手渡す。

「ん。そういえば風丘先生は確か……」
「これから大阪で学会よ」
「そうだったな…」
「あら……じゃあお目にかかれないですね。残念」
聖子は本当に残念そうだった。
「早月先生にお伝えしておきますね」
「はい、お願いします。えーと……」

「榊です。榊マリコといいます」
「榊さん。私は五条聖子です」
自己紹介がまだだったことを思いだし、宇佐見を含め、改めて挨拶を交わした。




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