誰よりも…





自宅の玄関を開けると、見慣れた靴に出迎えられた。
気持ちの整理がつかない土門は戸惑ったが、いつまでもこのままというわけにもいかない。
土門は腹をくくった。



「おかえりなさい」
マリコは、はにかんだように笑って土門を迎える。
その笑顔ひとつで心の澱が溶けていく。
自分はどれだけ彼女に溺れているのか……。


「腕の怪我、大丈夫なのか?」
「ええ」
「そうか…」
会話が途切れると、マリコが土門に近づく。
そして、目いっぱい腕を伸ばして、土門を抱きしめた。
土門が驚きに目を見張る。

「ごめんなさい。土門さん、ごめんなさい……」
声を詰まらせながら、マリコは何度も繰り返す。
何のための謝罪なのか、土門にはよくわかっていた。

「もういい、榊。わかればいいんだ」
土門はマリコのケガをしていない腕に手をかけて、すこし体を離す。
背中を丸めて、マリコに視線を合わせた。

「俺のほうこそ、すまん。手をあげようとするなんて、最低だな…」
マリコは黙って首を振った。
そして涙の幕が揺れる瞳で土門を見上げる。


「土門さん、聞いて。私、土門さんのことが………」



伝えたい言葉は、たったひとつ。




fin.



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