駄々漏れ
今日はどのルートでまわろうかなー🎵
ふん、ふんと鼻歌を口ずさみながら、呂太はスイーツマップを持ちながら、あっちのパン屋にふらり、こっちのケーキ屋にふらりと寄り道していると、ある店舗のイートインスペースに見慣れた二人を見つけた。
ガイドブックにも載る有名なカフェで、その二人は一個の宇治抹茶かき氷を一緒につついている。
「どう見てもデートだよね?マリコさんと土門さん……」
常に多忙な仕事仲間の為にリラックス効果のあるハーブティーと、眼精疲労に効く漢方入りの中国茶を買い求め、今度は日本茶を…と、有名な茶圓の暖簾をくぐる。
併設したカフェは、『舞妓さん行きつけのカフェ20選』に選ばれた人気の店だ。
宇佐見は日本茶の棚を物色中に、見知った二人を見つけた。
その二人は一個の宇治抹茶かき氷を一緒につついていた。
「あのお二人、やはりそうでしたか……」
そっとしておくに限ると、宇佐見は黙って店を出ていった。
「蒲原さーん」
振り返ると、お団子を揺らしながら亜美が走ってくるのが見えた。
「涌田さん、どうしたの?」
「か、かんばらさん、歩くの、は、速すぎ…」
亜美は両膝に手をついて、上がった息を整えている。
「ふぅ…。今日はもうあがりですか?」
「うん。本屋に行こうと思って」
「あ、私もです!」
「じゃぁ、一緒に行こうか?」
どこの本屋にする?と相談しながら歩いていると、亜美がぴたりと立ち止まった。
「涌田さん?」
「蒲原さん、あれ…」
亜美の指差す先には、レトロな純喫茶があり、その店内ではよく知る二人が、一個の宇治抹茶かき氷を一緒につついていた。
「ど、土門さん?」
「と、マリコさんですね…」
「……デ、デートかな?」
「ほぼほぼ……」
翌朝、宇佐見が出勤すると呂太と亜美が何やらひそひそ話をしていた。
「おはようございます」
「ねぇー、宇佐見さん聞いて!」
呂太が興奮気味に、昨日の目撃談を話してきた。
「私も見ましたよ」
「え?宇佐見さんもですか?」
亜美が身を乗り出すように尋ねる。
「ええ。でもお二人のプライベートですから…。あまり詮索しない方が……」
「違うよ!そうじゃなくて。何を食べてたか見た?」
「何を?……確か、宇治抹茶かき氷だったと…」
「やっぱり!」
「?」
「僕と亜美さんが見たときも、宇治抹茶かき氷だったんだよ!」
「一日に3杯はさすがに食べませんよね……?」
「ね、ね、何か変だよね?気になるよね?」
「おはようございまーす」
噂のマリコが出勤してきた。
止める間もなく、呂太がズバリ尋ねた。
「マリコさん、昨日土門さんとかき氷食べてなかった?」
「ええ。母さんに、美味しい宇治抹茶かき氷を食べたいから、リサーチしておいてって頼まれたの。土門さんに付き合ってもらったけど、さすがに一日に3杯はキツかったわ…。みんなにも声かけようて言ったんだけど、そんなことに巻き込んだら迷惑だろうって言われちゃって……」
呂太くん、見かけたなら声かけてくれればよかったのに…なんて言われても、絶対かけられるわけがない。
「美味しいお店見つけたから、今度はみんなで一緒に行きましょうね」
言うだけいって、マリコは自分の研究室へ向かった。
三人は揃って首を横に振る。
「土門さん、マリコさんと二人で行きたかったから、私達には声かけなかったんですよね?」
「そうでしょうね……」
「絶対そうだよ!ね!」
私たちにも分かるくらい駄々漏れなのに……。
『マリコさん、貴女って人は……』
fin.
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