会えない時間が愛育てるのさ
「そういうわけでね。相馬くん、マリコさんにそれとなく聞いてみてくれないかな?」
泰乃が頼むと、ディスプレイの向こうで、相馬は呆れた顔をしている。
『いいっすけど。あの二人、まだくっついてないんすか?』
「この前、マリコさんに会ったんでしょ?どんな感じだった?」
『それがぁ……』
相馬はその時のことを思い出す。
「マリコさんじゃないですか!」
「あら。相馬くん、久しぶりね」
「マリコさん、どうしてここに?」
「転職したのよ」
「ええええ!?」
「ちょっと、声が大きいわよ」
「すんません。あ。でも嬉しいっす。俺、ここには月イチくらいで顔出すんで」
「そう。これからよろしくね」
「うっす。そうだ、今夜メシでも行きましょうよ!皆の話も聞きたいし」
「悪いけど、また今度ね。今、仕事が立て込んでいるの。じゃあ」
『「じゃあ」ってそれだけっすよ?冷たいと思いません?』
「マリコさん、相変わらずだね」
泰乃は想像し、苦笑した。
『取り付く島もなくて、写真撮るのが精一杯。土門さんどころか、日本の話題を出す間もなかったし』
「だったら、次は上手いこと話を聞きだしてちょうだい」
『えー。教えてくれるかな』
「科捜研の皆も心配してるし、相馬くんしか頼る人がいないのよ」
その言葉に、相馬はふふんと前髪をかき上げる。
『まっ。そう言われたら仕方ないっすね。俺って頼りがいのあるオトコ……』
「じゃ、よろしくね」
泰乃はブチッとオンラインを切断した。
それから数日後のことだ。
「マ、リコさ〜ん♪」
「相馬くん。また来たの?」
「冷たいっすねぇ。はい、どーぞ」
「あら。ありがとう」
缶コーヒーを手渡されて、ふとマリコの記憶が蘇る。
以前はよくこうして缶コーヒーをもらって、並んで飲んだものだ。
懐かしい、そう思うと同時に物足りなさも感じた。
一体何が足りないのか。
「ところで、マリコさん」
相馬の声に、マリコは沈みそうになる思考を戻す。
「なに?」
「土門さんと連絡取ってます?」
「直球すぎ!」と泰乃がいれば叱られるだろうが、ここに泰乃はいない。
「え?どうして?」
「みんな心配してるんすよ。二人のこと」
「私と土門さんのことを?どうして?」
「どうして、って……。それは」
言いかけて、はたと相馬は悩む。
どこまで言っていいものか、さすがの相馬もそろそろ誰かの地雷を踏みそうだと気づいた。
「そ、そうだ。土門さん、最近新しい相棒ができたそうっすよ」
相馬は、泰乃から何気なく聞いていた話題を持ち出すことにした。
「え?蒲原さんは?」
「詳しいことはわかんないっす。でも今度の相棒は若い女刑事で、ちょー美人のナイスバディらしいっすよ」
口からでまかせがスラスラ。
相馬は市古のことを知らないので、自分の希望を言ってみたのだ。
「そ、そう。それで……二人は上手くやれてるの?」
詮索してくるマリコに、相馬は「おやっ?」と思った。
「それが、めっちゃ相性がいいみたいで、もしかしたらプライベートでも相棒に……っと」
口が滑りすぎたと相馬は焦るが、マリコは何かを考え込んでいた。
「マ、マリコさん?」
「仕事に戻るわ。またね、相馬くん」
呆気に取られた相馬は、ただマリコを見送るしかなかった。
『なにそれ?結局何もわからなかったってこと?』
「いや。でもね、微妙に食いついた気がしたんすよねー。土門さんの相棒が女刑事だって言ったとき」
『相馬くん、そんなこと言ったの?』
「まあ……なりゆきで?」
『……他にも何か言ったの?』
「えー、別に……。相棒は美人でナイスバディとか。相性がよさそうとか……」
段々と相馬の声が小さくなるのは、ディスプレイの向こうの泰乃の顔が険しくなっているからだ。
『ちょっと!何でそんな嘘つくの!』
「え?別に嘘なんて言ってないっすよ。だって俺、土門さんの相棒がどんな人が知らないし」
『あのね。相棒の市古刑事はね、美人というよりは幼い感じだし、ナイスバディというより、小柄ね』
「泰乃さん。けっこうさらっと酷いこと言ってません?」
『と、とにかく。次にマリコさんに会ったら、ちゃんと訂正しておいてね!』
「へいへい」
そこで通話は切れた。
「マリコさん。絶対に気にしてたよなぁ…」
相馬は腕を組んで目を閉じる。
彼の野生の勘が告げているのだ。
「何か面白いことが起きそうだ」、と。