会えない時間が愛育てるのさ



ここは、京都府警本部長室。

「藤倉くん。榊くんの補充はどうなってるのかね?」

「今年度は難しいかもしれません」

「ええ?どうして?」

佐伯本部長はぎょろりとした目をさらに開く。

「科捜研に対して世間の風当たりが強く、募集をかけても応募がありません」

「なんてこった……」

佐伯本部長は天を仰ぐ。
本来なら、科捜研への就職は非常に狭き門のはずなのだ。

「科捜研の募集はこのまま続けるつもりですが、それとは別に刑事課の人事の件でご相談があります」

「何かね?」

「土門のことです」

「土門?」

「間もなく、蒲原は警視庁研修を受ける予定です。その間、土門に若手を教育させてはどうかと」

「土門には聞いてみたのかね?」

「はい。短期間なら構わないと言っていました」

「それならいいんじゃない。で、相棒は誰にするの?」

「それなんですが……」



「“いちご”!お前、土門さんの相棒に立候補したって本当か!?」

「蒲原さん、勝手に濁点つけないでください。私は、“いちこ”です!」

鼻を膨らませて抗議するのは、市古壱子いちこいちこ。冗談みたいな名前だが、本名である。
この4月に刑事課へ配属になったばかりの新人なうえに、小柄で華奢な市古は中学生にも見える。そんな理由から、蒲原をはじめ、先輩刑事たちは市古をからかうのだ。

「本当ですよ。蒲原さんは卒業だって聞いたので」

「勝手に卒業させるな」

蒲原は腕を組み、見上げる市古を逆に長身から見下ろす。

「蒲原刑事はもう一人前だと、土門刑事が仰っていました」

「……………」

そう言われて悪い気はしない。
蒲原はにやけそうになる口元を手で隠した。

「俺自身はまだまだ土門さんの下で学びたいことが沢山あるんだ。お前に譲る気はない!」

「そんなことを言ってるが、お前……来月から警視庁じゃないのか?」

「ど、土門さん!?」

突然背後から聞こえた声に、蒲原は文字通り飛び上がって振り返る。

「藤倉部長から聞いてるぞ。3か月間、研修で警視庁へ出向だと」

「それは。そう、ですが……」

「お前が不在の間、市古をしごいてやれと藤倉部長に頼まれた」

「……………」

部長命令とあっては、蒲原も駄々をこねるような真似はできない。

「研修が終わったら、また土門さんの相棒に戻れますよね?」

「それはわからん」

「え?」

「市古がお前より優秀なら、トレードという可能性もなくはない」

「まさか、そんなことは……」

「それが嫌なら、お前も警視庁でしっかり学んでこい。いいな!」

「はいっ!」

何だか上手く乗せられてしまった蒲原だが、3ヶ月の警視庁研修は変えられない。それにチャンスだとも捉えている。もう一皮剥けて、土門に近づきたい。今は追いかけるだけの背中を、いつか肩を並べられるようになりたい。今回の研修は、そのために自分には必要な機会だと考えているのだ。

「頑張れ!」

ポンと土門に肩を叩かれ、蒲原の腹は決まった。

「“いちご”。3ヶ月だけ俺の居場所を貸してやる。いいか、貸してやるだけだからな」

「だから、“いちこ”です!」

律儀に訂正することは忘れない。

「不肖、市古壱子巡査。蒲原先輩を越えられるよう励みます!」

「お前にはまだまだまだまだ無理だ」

「あ、4回も言った!」

ふふんと高みから見下ろす蒲原に、ガルル…と牙を剥くチビ怪獣。
この二人「案外いいコンビになるかもな」と土門は興味深く様子を見ていた。


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