DMGs
「ちょっと薫ちゃん、聞いてよ!」
廊下の遥か先から聞こえる
喚きながらもっさりした人影が土門めがけて突進してくる。
正体は小さなキャバレーを経営するママだ(ただし生物学的性別は♂)。
土門とは過去の事件で知り合ったのだが、その際、土門に一目惚れをしたらしく、以来何かと絡んでくるのだ。
「このお巡り、アタシのこと男だって言うのよ?」
「お前は男だろうが」
「薫ちゃんまでそんなこと言って!アタシの心はオンナだって知ってるでしょ」
妙な“しな”を作る大男の姿は、正直あまり見たくはない。
「あー、わかった。わかった。ところでなんで
「それがさぁ。アタシの店が売りをやってるんじゃないかってタレコミがあったんですって」
「やってるのか?」
「もお、薫ちゃん!誤解に決まってるでしょ」
鼻息荒い顔が近づき、土門は思わず後ずさりした。
「とにかく。おとなしく取り調べに協力しろ。誤解ならそれですぐに帰してもらえる」
「ホントにぃ?」
「誤解、ならな」
「だからぁ!」
「あー、うるさい。おい、さっさと連れてけ!」
「ちょっとお。薫ちゃぁぁぁん」
大男は巡査3人に廊下を引きずられていった。
「土門さん。聞いたわよ、ママの話」
「お前も知ってるのか……」
土門はため息をつく。
「へんな奴に付きまとわれて、こっちはいい迷惑だ」
「へんな奴、だなんて失礼よ。今は多様性の時代なんだから」
「別に多様性を否定してるわけじゃない。現にお前が料理の才能ゼロだったとしても『女らしくない』なんて、俺はこれっぽっちも思ってないぞ」
「何かムカつく言い方ね。料理なんてできる人がやればいいじゃない」
「そうだな。ただし、家事分担の約束は守るべきだと思うぞ」
「……………」
何かしら身に覚えのあるマリコは、すっと視線を逸らす。
「今日の朝飯と昨日の洗濯当番、サボった罰に明日と明後日はお前が両方やれよ」
「えー!」
「えー、じゃない」
「何よ。男のくせにみみっちいわね」
「『男のくせに』はセクハラだぞ。人間は等しく平等なんだ。いいな。今度、約束を破ったら……」
「破ったら?」
「お仕置きはこんなもんじゃ済まないと思え」
“こんなもん”の不意打ちにマリコは唇を押さえて赤くなる。
ジェンダーなんて関係ない。
相手が榊だから。土門さんだから。
対等でありたいと願う。
側にいたいと思う。
触れあいたいと……求めるのだ。
ちなみに。
翌朝、いつまでも布団から出られないマリコに代わり、キッチンに立つ土門の姿があったとか、なかったとか。
「土門さんのせいよ!いたた……」
寝室には、腰をさするマリコの不満だけが木霊していた。
どもマリ平等の実現には、まだしばらく時間が必要なようだ。
fin.
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