未解決事件



―――― それでは、Sさん、D刑事、本日はよろしくおねがいします。

「ええ」
「………」

D刑事は無言で頷いた。

――――― まずは私が集めた証言をご覧ください。

これまでの証言VTRを確認する二人。

――――― どう、思われますか?

「あの。未解決事件とお聞きしていたんですが、これ……いったい、何の事件なんでしょうか?」

Sさんは本気で首を傾げている。

――――― D刑事はいかがでしょう

「何となく、皆が言いたいことはわかる」

「え?本当??」

「わからないのはお前ぐらいのもんだろう」

「ちょっと!それ、どういう意味?」

――――― まあ、まあ。落ち着いてください。私はこの事件を解決し、京都府警の未解決事件数を減らすお手伝いがしたいのです。D刑事。この辺りが年貢の納め時とは考えられませんか?

「それを決めるのは俺だ」

――――― しかし、あなたが一歩踏み出すことで、この未解決事件は解決するのでは?

「簡単に言ってくれる。踏み出せるものなら、とっくに踏み出しているさ」

D刑事は鼻頭に皺を寄せる。一人、蚊帳の外だったSがここで爆弾発言を投下した。

「いいじゃない。踏み出してみたら?」

「…………………………」

信じられないものを見る目で、D刑事がSを凝視する。

「本気で言ってるのか?」

「もちろん!」

「踏み出したら、その先はどうなると思う?」

「別に。きっと変わらず道は続いてるわよ」

「ほう……」

案外、真理をついているかもしれない。

「わかった。お前も未解決事件の被疑者にされるのはごめんだよな?」

「当たり前じゃない。そもそもどこが事件なのかわからないわ」

「だったら、俺は一歩踏み出す覚悟を決めた。お前も腹をくくれ」

「え?ええ……」

D刑事の気迫に、Sはややおよび腰だ。

「よし、いくぞ!」

D刑事はSの腕を掴むと早足で歩き出した。



被疑者二人が向かった先は、刑事部長室だった。

「失礼します!」

勢いよく扉を開ける。

「二人ともどうしたんだ?」

「お願いがあって来ました」

「なんだ?」

「自分と榊の仲人をお願いします!」

「なに?」
「ええーーー!?」

F刑事部長こと、藤倉と、Sこと榊マリコの驚嘆が重なった。

「土門さん、どういうこと?私、何も聞いてない」

「今、初めて言ったからな。俺は覚悟を決めた。お前も腹をくくったんだろう?」

D刑事…土門はマリコを見た。

「それは……」

「そうか!ようやく決めたか!」

藤倉は二人の前に立つと、「いつにする?」と聞いた。

「はい?」

「だから、式はいつにするんだ?善は急げと言うだろう」

「いや、それはまだ……」

「忙しくなるな。これで京都府警の未解決事件も無事に解決だ。榊、監察官には伝えたのか?」

「いえ……」

「早く伝えてやれ。監察官も長いこと気に病んでいたたはずだ」

「はい。わかりました」

「ああ、すまんな。これから会議があるんだ。詳しいスケジュールは後日相談しよう。時間を空けておく」

「よろしくお願いします」

「うむ。二人とも」

「「はい?」」

「おめでとう」

そういうと藤倉は急ぎ部屋を出ていってしまった。
マリコは一度深呼吸をした。

「待って。ねえ、待って。おかしいわよね?」

「何が?」

「だって、『おめでとう』じゃないでしょ。私、そもそもプロポーズもされてないわよ」

「お前、案外形にこだわるタイプなんだな」

「こだわらない土門さんのほうが変よ。この先のお互いの人生のことなのよ。勢いで決めてしまっていいの?」

「勢いじゃない」

「え?どういう意味?」

「俺には勢いじゃない。ずっと悩んで、迷って、考えていたことだ。お前は気づいてもいなかっただろうが、随分前から俺はお前が好きだ」

「土門、さん……」

「だが、今の関係を変えてまでこの気持ちを伝えるべきか、答えが出ずにいたんだ。最初は反発しあっていたが、長く仕事をしてみれば、事件についての考え方や、被害者への向き合い方、俺たちはよく似ているだろう?だから、周りの奴らは俺たちがさっさとくっつけばいいと思っていたらしい」

「そうなの?」

「ああ。ところがいつまで経っても変わらない俺たちにヤキモキした人間が、俺たちの関係を未解決事件と呼び出したんだ」

「未解決事件って…」

マリコは開いた口が塞がらない。

「それで」

「え?」

「いつにするんだ?」

「もしかして、お式のこと?」

「それもあるが、その前にご両親に挨拶へ行かないとな。あと、美貴にも会ってやってくれ」

「美貴ちゃんに会うのは嬉しいけど」

「俺も久しぶりに榊監察官と話したい」

「父さんに都合を聞いてみるわ」

「頼むな」

いつの間にか自然とそういう流れになっていた。
確かに土門の言う通り、自分たちはいい相棒なのかもしれない。

マリコは土門を盗み見る。

言葉がなくても相手のことを察することができる。ただし、恋愛というジャンルに関しては例外のようだが。

「なんだ?」

視線に気づいた土門はマリコに顔を近づけ聞いた。

「何か言いたいことがありそうだな?」

「別に。ないわよ」

「嘘だな。俺がさっき言ったことか?」

『随分前から俺はお前が好きだ』

「………………」 

無言は肯定の証。

「本当のことだ」

「気づかなかった」

「無理もない。お前にだけは気づかれないようにしていたからな」

「どうして?」

「言っただろう。今の関係を壊したくなかった」

「もしかして、怖かったの?」

「………………ああ。怖かった」

土門は正直に答えた。

「ねえ、土門さん。私たち、結婚しない?」

「は?」

藤倉に頼んだ“仲人”とは“そういうつもり”だったのだが?
土門は困惑し、パチリと瞬きした。

「ちゃんとわかってる。でも土門さんが言ってくれないから、私から言ってみたの。二人の関係が変わることは怖いことじゃないわ。私がそれを証明する」

「ハハハ。まさか逆プロポーズされるとはな」

「別にいいでしょ?嫌なの?」

「嫌なわけあるか。好きな女にプロポーズされたんだぞ。これでも舞い上がってる」

「そんな風には見えないけど?」

「そうか。どれくらい舞い上がってるのか、俺も証明してやるよ」

軽く合わさった唇はすぐに離れた。

「好きだ」

土門はマリコの瞳を見つめて、今度はゆっくりと重ねていく。
そしてその口づけを受け止めて、マリコは土門のジャケットをギュッと掴んだ。


さて。
翌日から二人の噂は京都府警の中に広まっていくこととなった。喜ぶ者、落胆する者。悲喜こもごもであったことは想像にかたくない。
特に、被害者として証言した風丘医師に先述の藤倉刑事部長、経理担当の加瀬氏はことのほか喜び、安堵し、胸を撫で下ろしたという。
また科捜研の仲間たちに蒲原刑事も、大いに二人を祝福した。

ただ、未解決事件が解決したことで新たに被害者となってしまった人物がいた。

一人は京都府警S本部長。

「どうして藤倉くんが仲人なんだね。私じゃだめなの?」

そしてもう一人は京都医科歯科大学のS医師。

「マリコさんが結婚だなんて~。ショックだけど、でもボクのマリコさんへの気持ちは変わりませんからね。マリコさ~ん」

残念ながら、こちらの未解決事件は時効とともに迷宮入りとなりそうだ。



時間という大きな壁が立ちはだかる、未解決事件。
それでも捜査員たちは事件解明のため、日夜捜査に邁進し続ける。

もしかすると。
あなたのお住いの警察にも、解決を待つ事件が眠っている……かもしれない。



fin.


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