未解決事件
未解決事件とは、容疑者が検挙、または判明・発覚などが一切できていない刑事事件のことである。
捜査または捜索等が行き詰まった場合、または公訴時効が成立して未解決となった事件は、完全犯罪が成立することを意味し、また「迷宮入り」とも言われる。
京都府警内にも長年未解決となっている一つの事件がある。
そこで今回は、ナビゲーターとして私、福々がこの事件に関わる様々な立場の人たちの証言をもとに、改めて独自の目線から事件を見直してみたいと思う。
ではまず、事件の概要から説明しよう。
事件発生日時の詳細は不明。おそらく十数年前であろうと推測される。被害者は多数。とくに大きな被害を被った人間も数人いたが、すでに他界している者もおり、正確な人数は把握できない。
容疑者は二人。
一人は京都府警科学捜査研究所に所属する法医研究員の女性S。彼女は「科学は嘘をつかない」を信条に、事件の早期解決のため昼夜を問わず鑑定に没頭する。ワークライフバランスとは対極にいる女性だ。
もう一人は京都府警捜査一課の男性警部補D。彼は強い正義感を持ち、誰よりも犯罪を憎んでいる。
ときにその正義感が行き過ぎてしまう懸念があることも否定はできない。
こんな二人が侵す犯罪とはどのようなものか。
早速、関係者の証言を見てみよう。
「え?あの二人のこと?」
彼女はK医師。専門は法医学で、京都府警から依頼された解剖を担当している。
「もうじれったいの一言よね。マリコさんが仕事人間すぎるから、私は変な時間に呼び出されたり、勝手に鑑定を手伝わされたりするわけ」
――――― それは確かに迷惑な話ですね。
「二人がさっさとくっついてくれれば、彼女のワーカーホリックも少しはマシになるんじゃない?」
K医師は肩をすくめた。
次は二人の上司にあたるこの人だ。
「まったくもって迷惑な話だ」
そう言って、F刑事部長は口をへの字に曲げた。
「ことあるごとに、二人揃って反抗してきては、勝手に有給をとって管轄外で捜査をする。そもそも科捜研職員に捜査権はないのに、だ。しかしもっと問題なのは、規律違反をしながらも事件を解決してしまうことだ。それほどの名コンビなら、早いところ一つの鞘に収まってくれれば、片方だけに小言を言えば私の仕事は済むんだが…。こう見えて私も忙しいのだ」
への字だった口を緩めると、最後にこう締めくくった。
「仲人を頼むつもりなら退官前にして欲しいものだな」
そして、意外にこの人物も地味に被害を被っているらしい。
「勝手にあちこち聞き込みにいったり、検証用に色々買い込んだりするから、毎月予算が厳しくて。どうせなら二人で有給とって、旅行のついでに調べてくれればいいのに…」
経理専門のKの愚痴は止まらない。
「ねえ?」と話を振られたのは、K刑事。
彼はD刑事の直属の部下だ。
「俺は別に…。あの二人のこと迷惑だなんて思ったことないです。あるとしたら……迷惑ではなく気を遣うってことですかね」
――――― というと?
「最近Sさんと一緒に行動する機会が多いので、誤解されることがないように、距離感は常に注意しています。もちろん、Dさんへの報告も欠かしません」
K刑事のように被疑者2名に対して好意的な意見があることも事実だ。
ここからは反対の意見にも耳を傾けてみよう。
「ワーカーホリックなところは困るけど、事件を解決したいという気持ちはみんな同じだからね。被害というより、上司として彼女の体のことが心配だね」(H所長)
「私は母の介護をしているので、急な残業に困ることもありますが、同じ科学者としてSさんの知識と情熱は尊敬しています。何より母が言うんです。科捜研へ転職してから、私が楽しそうに仕事をしていると。母が喜んでくれることが、私は嬉しいです」(U所員)
「私はお二人とも大好きです!ムチャブリだって結構楽しいですよ?」(W所員)
「僕も最近、その楽しさが分かってきた気がします。家族が一番ですけど、今は二番が仕事です。Sさんは仲間のことを信頼してくれるので、仕事もしやすいですよ」(K所員)
こうした意見が根強いことも、この事件が未だ解決しない要因の一つでもあるだろう。しかし被害者がいる以上、事件は解決しなくてはならない。
そこで私は、容疑者本人たちに直接インタビューを申し込んだ。すると二人はこちらが拍子抜けするほど簡単に承諾してくれた。
後編では、いよいよ渦中の二人に斬り込んだ質問をぶつけたいと思う。
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