流星の夜に
「すみません。今日はお先に失礼します」
いそいそと帰り支度を始める君嶋。
「今日は娘さんのお迎えですか?」
亜美は時計を見ながら聞いてみた。
「あ、いえ。今夜は娘と天体観測へ行く約束をしているんです」
「そうか。今夜はオリオン座流星群が極大になるそうですね」
宇佐見はカレンダーを確認する。
「はい。科学館で観測イベントがあるんです」
「へえ。楽しみね。気をつけていってらっしゃい」
「ありがとうございます。失礼します」
マリコたちに見送られ、君嶋はダッシュで帰っていった。
それから順に皆も帰って行き、最後まで鑑定に没頭していたマリコは、着信音にハッと顔を上げた。
「もしもし、土門さん?」
『よお。お前、今夜ヒマか?』
「いいえ。まだ仕事よ」
『まだ?何時に終わる?』
「そうね。あと1時間くらいかしら。急ぎの鑑定だって言われてるから、誰かさんに」
嫌味に聞こえるように言ってみるが、電話の向こうで土門は笑うだけだ。
『そいつはすまない。じゃあ、お礼に飯を奢らせてくれ。1時間後ならいいか?』
「わかった。連絡するわ」
『おう。あ、食いたいものも決めとけよ』
「うんと高いものを考えておくわ」
『ラーメンだな。わかった』
「何言って……ちょっと!」
一方的に切られた通話にマリコはむくれる。
それでも次の瞬間には、くすりと笑みがこぼれていた。
約束の1時間後、二人の姿は夜空の下にあった。
「どうした?食えよ。ここのラーメン上手いぞ」
赤提灯が下がる屋台の長椅子に並んで腰掛け、二人はずずーっとラーメンをすする。
「おいしい……」
「だろ?」
「……だけど、これがお礼?」
屋台の主がマリコをちらりと見るが、だんまりを決め込んでいる。
「それだけじゃないぞ」
土門は腕時計を確認した。
「そろそろだな。オヤジ、ごちそうさん」
土門は二人分の会計をテーブルに置くと、マリコを促す。
「ちょっと付き合え」
マリコは慌てて水を一口含むと、土門の後を追った。
「土門さん、どこに行くの?」
「ここだ」
屋台から歩くこと数分。
土門は高台に立ち止まり、空を見上げた。
「お前も見てみろよ」
言われて、マリコも視線を空へと向けた。
「うわぁーー」
真っ暗な夜空を矢継ぎ早に流れていく星たち。
数え切れないほどの流れ星が生まれては消えていく。
「願い事、しなくていいのか?」
「え?」
「これだけ流れていれば、1つくらいは叶うかもしれんぞ?」
「そうね……」
マリコは目を閉じる。
「何を願ったんだ?」
星空から視線を戻したマリコ。
「少し寒いから温かくなりますように、って」
土門は笑う。
「そんなの、今すぐ叶えてやるよ」
マリコは背後から土門に包まれた。
冷えた肩に伝わる熱が心地いい。
「他に願いはないのか?」
「今度は土門さんが願い事をしたら?」
「叶うと思うか?」
「心から願うなら」
マリコは振り返り、土門を見上げる。
「手に入れたい。腕の中の星を」
見下ろす土門は、抱きしめる腕に力をこめた。
今度はマリコが笑う。
「そんなの、もう叶ってるじゃないの」
流星降る夜に、2つの影は長いこと1つに重なったままだった。
fin.
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