たかが3音。されど3音。
土門が聞き込みに向かうと、店員はマリコのことを覚えていた。
「ああ、覚えていますよ。閉店前最後のお客様でしたね。電池交換は30分ほどだとお伝えすると、お預かりではなく、お待ちになるということでした」
「それで19時30分ごろ交換を終えたペンを彼女に渡した。間違いありませんか?」
「はい」
「その時、この女性は何か言っていませんでしたか?」
「そうですね……」
店員は思い出すために、少し沈黙した。
「物産展に美味しそうなお店がいくつもあったとかで、何日までやっているのかを聞かれました。そうそう、それで何を買ったのか私がお尋ねして。これから帰って夕飯のおかずにしますと仰っていましたね」
「そうですか。ありがとうございます」
つまり、マリコはここを出た後、まっすぐ自宅に帰るつもりだったと考えられる。
店員への聞き込みが終わったところで、メールが届いた。開いてみると、交差点で信号待ちをするマリコが映っていた。
続いて科捜研からの着信だ。
「土門です」
『宇佐見です。土門さん、画像は見てもらえましたか?』
「はい」
『それがマリコさんの最後の足取りです。以降は付近のカメラのどこにも映っていたいませんでした』
「では、この直後に?」
『おそらく何者かに拉致されたのではないでしょうか』
「榊の映った時刻、19時50分に間違いはないですね?」
『はい』
「この交差点から殺害現場までは、車でも20分はかかる」
『はい。……土門さん!』
「ええ。死亡推定時刻は18時から20時。榊のアリバイは成立します。これで榊への疑いは晴れる。人員を増やして捜索できるように藤倉部長へ頼んでみます」
『お願いします』
切実な声に土門は「はい」と力強く答えた。
誰もが案じている。
マリコの身を。
それは土門も同じだ。いや、少し違うだろうか。
マリコの存在は土門にとって唯一無二だ。
ずっと胸に秘めていた。
この気持ちを伝えるつもりは、ない。
ただ、必要なときは彼女の側にいて支えられればそれでいい。
他には何も望まない。
それが土門にとっての矜持だ。
だが近ごろ「本当にそれでいいのか?」と問い返す声が胸の奥で生まれた。
マリコが自分以外の誰かに支えられたいと言ったら?
それを認められるのか?
譲れるのか?
矢継ぎ早に問いただされ、土門の足元がぐらつく。
もし、認めたら。
もし、譲ったら。
その後の自分は、どうするのだろう。
思考の沼に落ちる前に、今の土門にはやるべきことがある。
急ぎ京都府警へ向かった。
土門は藤倉へこれまでの捜査報告を伝えた。
「わかった。殺人と榊の捜索、捜査は二本柱で進める。お前は……聞くまでもないな」
「すみません」
土門は苦笑する。
「謝る必要はない。榊も救い出してもらうなら、お前がいいだろう」
「え?それはどういう……」
「急いでチームを編成しろ。もし監禁されているなら榊の健康状態が心配だ。一刻も早く、あいつを見つけろ」
「はっ!」
今考えるべきは榊を救い出すこと。
それだけだ。
土門は、気持ちを奮い立たせた。