好きにして




マリコを背負ったまま部屋までやって来た土門は、リビングのソファに彼女を下ろした。
そして、そのまま立ち上がろうとして、逆方向に引っ張られる感覚に気付き、振り返った。
見れば、マリコがジャケットの裾を掴んでいる。
「榊?」
「………」
マリコは何も答えず、ただジャケットの裾を握って離さない。

「それは…、誘ってるって思っていいのか?」
酔っ払い相手に何を期待しているのか……土門はからかうつもりで聞いてみた。
思った通り、マリコは首をふる。
だが、それは土門の予想とは全く異なる理由からだった。

「違うわ。誘ったりしてない。だって…」
マリコは土門を見上げ、小さく呟いた。
「私は土門さんのものだもの……」


それは、つまり ―――

――― 貴方のものだから……好きにして。


土門はその表情を忘れぬよう目に焼き付けると、マリコの柔らかな手に指を絡めた。





fin.



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