危険な夏
今日も猛暑だ。
ここ数日、京都府には毎日のように熱中症警戒アラートが発令され、病院へ救急搬送される外国人観光客も多い。
たった今、マリコが向かっている現場でも亡くなっているのは外国人だと聞いている。
宇佐見がバンをパトカーの横に駐車すると、マリコと亜美が後部座席から、君嶋が助手席から現れた。
機材を手に被害者のもとへ向かおうとしたところで、「マリコさん!」と叫ぶ蒲原の声が響いた。
「蒲原さん?」
「マリコさん、こっち!」
呼ばれているのは現場とは反対方向のようだ。
「みんな、先に行って作業を始めていて」
二手に分かれると、マリコは蒲原の待つ方へ急いだ。
「蒲原さん、どうした…………土門さん!?」
蒲原の足元にはうなだれてしゃがみ込む土門の姿があった。
「土門さんが急に崩れ落ちてしまって」
マリコは土門の首筋に触れる。
「熱中症かもしれない。科捜研の車へ運ぶわ。蒲原さん、手伝って!」
「は、はい!」
二人で土門の両脇を支え、今しがたマリコが降りたばかりの車へ向かう。
「すまん…………」
「喋らなくていいから」
後部座席に土門を寝かせると、蒲原はエンジンをかけ車内のエアコンを最強にした。
マリコはトランクを漁り証拠保管用の保冷剤を取り出すと、ワイシャツのボタンを外し、土門の首筋、脇の下に挟んだ。
「土門さん、スラックスも脱がすわよ」
「なに!?」
「太ももの血管も冷やさないと」
「ま、待て」
「恥ずかしがってる場合じゃないわ」
「恥ずかしがってるんじゃなくて……」
土門はちらりと運転席の蒲原に視線を向ける。土門と目が合った蒲原は、慌てて目をそらした。
「俺、捜査の進捗を確認してきます」
そそくさと車を降りると、蒲原は走ってその場から離れてしまった。
「蒲原さん……急にどうしたのかしら?」
マリコは首を傾げながら土門のベルトへ手をかけた。
ファスナーを下ろすと、スラックスの裾を下へ引っ張っる。スルッと膝のあたりまで下がったところで、マリコは保冷剤を手にしたまま土門を見下ろした。
「し、仕方ないだろ。生理現象だ」
「そ、そうよね。生理現象…よ、ね?」
マリコは首を傾げる。
コホン、と土門は咳払いをした。
「半分はお前の責任だけどな」
「どういう意味?」
「ここのところ、ずっとお預けを食わされてたからな」
「そ、そんなこと……」
マリコは振り返る。
そういえば、鑑定が長引いて徹夜になってしまったり、論文を読んでいるうちに寝落ちしていたり、運悪く月のものと重なってしまったり…確かに。
「……あったかも」
「だろ?この責任は取ってもらう」
「せ、責任?」
「わかってるよなぁ?」
こんな時に限って、一課の刑事発動だ。鋭い視線を受け、たじろいだマリコは無意識に頷いてしまった。
「よし。そうと決まれば、今夜な」
「今夜?」と我に返ったマリコは、持っていた保冷剤を土門の足に押し付けた。
「今夜は安静に決まってるでしょ!」
「うわっ。冷てー!」
パンイチ姿で悲鳴を上げる土門。
さっきまでの刑事の威厳はどこへやら。
色々な意味で萎えてしまった彼と彼の“息子”にちょっとだけ同情したマリコ。
「元気になったらね」
ちょん、と指先で触れみたら、あら不思議。
あっという間に準備万端。
「これも生理現象?」
「そんなわけあるか。お前のせいだ!」
「それならいいわ」
「え?」
正直に答えたご褒美は、今夜、白いシーツの上で。
fin.
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