危険な夏



車が土門の家についた途端。

「な、なに?」

助手席のマリコが目を丸くするほどの勢いで雨が降り出した。まるで白いカーテンが引かれたように視界はぼやけ、爆音で周囲の音もかき消される。

「しばらく車で待つか…」

5分、10分……………。
待てども雨の弱まる気配はない。

「仕方ない。走るか?」

「そうね」

「行くぞ」

「ええ」

タイミングを合わせ、二人は車を飛び出した。
ずぶ濡れになりながら、玄関へ転がり込む。

「すごかったわね。びっしょり」

ほんの数メートルの距離なのに、マリコの髪からはポタポタと雨粒が落ちていく。

「お前、先にシャワー行って来い。着替えは適当に置いておく」

「え?いいわよ。土門さん先に使って」

「俺は後でいい」

「でも……」

「そんな格好で彷徨かれたら目の毒だ」

言われて自分の姿を見下ろせば、シャツは透けて下着の色までくっきり、パンツも足に張り付き、ボディラインが顕になっていた。
慌ててマリコは胸元を両手で隠した。

「そんな状態で襲ったりしない。とにかく先にシャワーへ行け」

「わ、わかったわ。お借りします…」

神妙なマリコを、「ちゃんと温まってこいよ」と土門は笑いながら見送った。


浴室から水音が聞こえだした頃、今度は突然轟音が響き、同時に室内が闇と化した。

「停電か。榊、だいじょう……」

「キャア!」

「榊!?」

土門はスマホのライトを頼りに浴室へ駆け込む。

「榊、開けるぞ!」

停電に驚いたマリコが床に座り込んでいた。

「大丈夫か?怪我は?」

「だ、大丈夫。驚いて足が滑っただけ」

「立てるか?」

「う、うん」

マリコは土門の手を借りて、滑らないように立ち上がる。

「ちょっと待ってろ」

土門はバスタオルを手を取るとそれでマリコの体を包み、腰に腕を回してマリコを支える。

「足元気をつけろよ」

土門にしがみつくようにして、マリコは浴室を出た。

「着替えるだろ。これ貸してやる」

土門はスマホをマリコに差し出した。

「土門さんもそのままだと風邪を引いてしまうわ」

しがみついたときに、土門の体がかなり冷たくなっていることにマリコは気づいていた。
マリコは手探りでタオルを探すが見つからない。仕方なく自分のバスタオルを外すと、土門の肩にかけた。

スマホのライトにマリコの裸体がぼんやり浮かぶ。

「お前の体もまだ冷たいな。どうせなら一緒に入り直すか」

「え?わ、私はもう大丈夫」

「遠慮するな。こんな暗さじゃ何も見えん」

「そ、そう?」

半信半疑なマリコだったが、土門に押し切られる形で浴室に戻る。

確かに暗くて互いの体はよく見えない。
しかし…。

「土門さん、何か当たるんだけど……」

「気のせいだろ」

「ちょっと、どこ触ってるの!?」

「気のせい、気のせい」

「うそ!もう……あ。や、ん………」

逆に聴覚と触覚は冴え渡ることを、マリコは身を以て体験することになった。



fin.


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