危険な夏



「失礼しま……暑っ」

科捜研へ足を踏み入れた途端、まとわりつくようなムッとした熱気に、思わず土門はネクタイを緩めた。

「あ、土門ふぁん。ひゅうにヘアコンのひょうひが悪くなっひゃったんれす」

PCの前の亜美はTシャツ一枚の格好で袖を肩までまくり上げていた。さらにパピコを口に咥えているため、いまいち会話が不明瞭だ。

「やあ、土門さん。どうもエアコンが壊れちゃったみたいでね。参ったよ…」

首にかけたタオルで汗を拭う日野は、せわしなく団扇を動かしている。

「修理は?」

「今、宇佐見くんと君嶋くんが見てくれてる。この時期、業者に頼んでもいつ来てくれるかわからないし、二人なら修理までやれそうだからね」

確かに。あの二人なら直してしまうだろう。何なら足りない部品も自作してしそうだ。
そこは任せるとして、土門は嫌な予感を覚えてマリコの鑑定室へ急いだ。

「入るぞ!」

最小限の隙間から土門は体を滑り込ませる。

「榊。だいじょう……」

「……ぶ」ではなかった。
土門の眉間に深い縦皺が寄る。

「ああ、土門さん……」

マリコは暑さにうんざりした顔で振り返った。

「この暑さだと鑑定に誤差が出てしまうかもしれないの。だから、結果は少し遅れそうよ。ごめんなさい」

しかし土門のシワの原因はもっと別のところにあった。
もともとマリコは夏でもそれほど薄着なタイプではない。それはエアコン対策のためだ。それがこの暑さとなれば、話は変わる。

「鑑定結果が遅れるのは構わん。それより何か上に羽織ったほうがいいんじゃないか?」

「だって暑くて…」

手うちわで首の辺りを仰ぐマリコは、タンクトップ姿だった。

「しかしな、その……露出が多すぎるんじゃないか?」 

「皆に会うときはちゃんと白衣を着てるわ。誰かさんみたいにノックもしないで入って来たりしないもの」

ふんっ、と不服そうに土門は鼻を鳴らす。

「とにかく、何か着ておけ」

土門はマリコの肩へ手をのばすと、落ちかけたストラップの位置を整えてやった。その肌はうっすら汗ばみ、しっとりと土門の手に吸い付くようだ。

「嫌よ。ベタつくんだもの」

全く言うことを聞かないマリコ。

「それなら、着たくなるようにするしかないな」

土門は今戻したばかりのストラップの隣に顔を寄せる。視線を落とすと、タンクトップの胸元に白く盛り上がった膨らみが目に映った。

『これは……他の男の目に触れさせるわけにはいかないな』

土門は肩口に赤い印を付けた。

「やだ!もしかして……?」

「虫刺されだと誤魔化すか?」

「もう、本当に暑いのに…」とブツブツ文句を言いながらも、マリコはシャツを羽織った。

「これならいいでしょ?」

「ちょっと下を向いてみろ」

「?」

マリコが言われた通りにすると、土門は無言でボタンを止めだした。

「土門さん?」

「抵抗するなら、ここにもつけるぞ」

上から覗けてしまう胸元を土門が突くと、ぷるんと揺れた。

「わかったわよ!えっち」

暑さにマリコは苛立つ。

「帰りにかき氷をおごってやる」

「え?ほんと!?」

途端に、ばっと目が輝くマリコ。

『その顔も他の奴には見せたくないな』

土門は己の独占欲の強さに苦笑した。



fin.


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