fulfill
少尉が九州へ着いて2週間が過ぎたある日の朝。
食事を取っていると、大袋を手にした部下が近づいてきた。
「おはようございます。土門少尉。郵便です」
「ありがとう」
部下から受け取った封書の束を確認していると、本部からの手紙に混じって、薄桃色の封筒が見えた。
「!」
少尉は残った食事をかき込むと、手紙の束を抱えて自室へ急いだ。
思ったとおり、その封筒はマリコからの手紙だった。白い封筒に紛れても派手ではなく、それでもひと目でマリコからの手紙だと分かる淡い桃色。
それは別れ際の妻の頬の色を土門少尉へ思い出させた。
少尉はどの手紙よりもまず、マリコの手紙を開いた。
時候の挨拶に続いて、少尉が無事に任地へ到着したのか、体調を崩してはいないか案ずる言葉が続いていた。
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一人になってしまってから、早月さんがよく遊びに来てくれるようになりました。
私のことを気にかけてくれているみたいです。
この前、二人で、新しくできた甘味処へ行ってみたんです。抹茶あんみつがとても美味しいお店でした。
次はあなたと行きたいです。
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「ほう。甘味処か。マリコは抹茶が好きだからな。戻ったら案内してもらおう」
自然と少尉の口元が緩み、弧を描く。
少尉はさらに妻の筆跡を辿る。
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この手紙は、月明かりの下で書いています。あなたと離れてから、私は毎夜、月を眺めています。この手紙が届く頃は満月でしょうか?
あなたと一緒に満月を眺められたら…。
どうか無事に戻ってきてくださいね。待っています。
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そう結ばれた手紙に、少尉の目頭が熱くなる。
まだ2週間しか経っていないのに、マリコのいじらしさに愛おしさが増す。
「私も毎晩見ている。マリコと同じ月を」
それからさらに2週間が過ぎたころ、マリコのもとへ少尉からの返事が届いた。
途中、時化で郵便の船が遅れ、配達も遅くなってしまったのだと、配達員が申し訳なさそうに手紙を置いていった。
マリコは寝室へ籠もると、夫からの手紙を開いた。
夫は無事に任地へ赴き、粛々と職務を遂行しているようだった。
ほかにも、現地で食べたカステイラというお菓子が絶品だったと書かれていた。
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甘くて柔らかくて、きっとマリコも気に入るだろう。土産に買って帰る。
甘味処も、楽しみにしている。
早月さんによろしく伝えてほしい。
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得意ではないと言っていた通り、返事はあっさりとしたものだった。
しかし、最後に。
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今夜はみごとな満月だ
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そう、書かれていた。
マリコは手紙を胸元に抱きしめた。
「あなたと私、月で繋がっているんですね」
マリコは外を眺めるが、日中、月は見えない。
「あなた。…………会いたい」