経年想化
翌日、引き続き殺害場所を捜索していた土門と古牧は、ようやく手がかりを掴んだ。科捜研が作成したリストのうち、一つの場所から血痕らしきものをいくつか見つけたのだ。さらに周囲を調べてみると、ブルーシートに隠された床に赤茶色の大きな染みがあった。
「土門さん!」
「古牧、榊に連絡だ」
「はいっ!」
古牧は興奮に震える指で、科捜研への短縮ダイヤルを押した。
『はい、科捜研』
電話に出たのは男性だった。
「あ、あの!榊さん、いますか?」
『君は?』
古牧の不躾な物言いに、電話口の相手は不信感を持ったようだ。
「あ、俺。いえ、自分は……」
「貸せ!」
しどろもどろの古牧から、土門はスマホを奪い取る。
「土門です」
『ああ、土門さん』
「所長。血痕を発見しました。殺害現場はここかもしれません。榊を寄こしてください」
『わかりました。すぐに行かせます。…マリコくーん!』
電話の向こうで、マリコが答えている声を聞いて、土門は通話を切った。
「古牧、落ち着け」
「す、すみません……」
それから応援の捜査員が駆けつけ、鑑識、最後に科捜研が揃い、現場は一気に騒然となった。
様々な人間が動き回る中で、宇佐見と君嶋は周辺の血液と微物の採取を行い、亜美は写真をとりながら防犯カメラの位置を確認した。
一方のマリコは一番大きな染みから血痕を採取すると、人獣判定検査を行う。
「人間の血液よ。すぐに持ち帰って被害者のものか鑑定するわ」
「頼んだぞ」
マリコは土門の目を見て頷く。
そして車へ戻る途中で、ふと、足を止めた。
「古牧さん、お手柄ね」
それだけ言うと、マリコは古牧の脇を通り過ぎていった。
古牧は何も言えず、ただ去っていく白衣の背中と、風になびく髪だけを見送った。
マリコの鑑定の結果、採取した血液が被害者のものと一致した。土門たちが発見したあの場所が殺害現場と特定されたのだ。それにより、防犯カメラの映像やタイヤ痕などの証拠が次々と集まり始めた。
古牧は緊張した面持ちで、封筒を抱きしめ、一歩一歩足を進める。
目的地に着くと、コホンと咳払いを一つ。
「し、失礼します」
声が裏返ってしまった。
「あれ?この前、土門さんと一緒にいた刑事さん?」
気づいた亜美が立ち上がる。
「古牧です。あ、あの。鑑定をお願いします」
封筒を受け取った亜美は中の書類を確認する。
「これ、マリコさん案件ですね。マリコさーん!」
亜美が鑑定室へ声をかけると、すぐにドアが開いた。
「亜美ちゃん、呼んだ?あら?古牧さん」
「お、お疲れさまです」
「マリコさん、鑑定依頼ですよ」
亜美から資料を受け取ると、マリコは中身にさっと目を通す。
「わかりました。明日の朝には結果が出ると土門さんに伝えて」
「はい」
「あ、そうだ。古牧さん、悪いけど明日、出勤前に科捜研へ寄ってくれるかしら?この結果を渡したいから」
マリコは封筒をひらひらと振る。
「承知しました」
かくかく頭を下げる古牧の様子が、マリコの笑いを誘った。
「古牧さん、土門さんの相棒は慣れた?こきつかわれてるんじゃない?」
「あ、いえ。勉強させてもらってます」
「そう?それならいいんだけど。あと…1週間か。頑張ってね」
「………ありがとうございます」
感謝の返事をしながらも、古牧は焦っていた。
マリコに指摘された通り、蒲原が戻ってくるまで、あと1週間。こうしてマリコと関わることが許された時間はあと…半分しかない。