Especially for you
「心配かけたわね。でも私なら大丈夫」
「ありがとう」と皆に答えながら、マリコの目は土門を探していた。
ようやく見つけて目が合うと、土門は小さく頷いただけで、すぐに捜査へ戻ってしまった。
「……………」
亜美がまだ何か話しているが、マリコの耳には届いていない。
『大丈夫か?』
その一言だけよかった。
声が聞きたいと思っていたマリコは、落胆した。
拉致されていたとき、「特別な人」と聞かれて、誰を思い浮かべたのか。
犯人が宇佐見をターゲットにするとわかっていたのに、誤解だと否定しなかったのは何故なのか。
何より、今、声が聞けないと落胆しているのは…。
「そういうこと、よね」
「マリコさん?」
亜美がきょとんとした顔で、マリコの言葉を聞いていた。
「ごめんなさい。何でもないわ。現場検証始めましょう」
「マリコさんが、ですか?」
二人の会話を聞いていた君嶋が驚いて口を挟む。
「え?そうよ」
「ダメです!マリコさんはまず病院です!」
「大丈夫なのに〜」
マリコは亜美に連行される。
その様子を土門が笑って見ていた。
「あ…」
気づいてしまえば、もう知らんぷりはできない。
きゅっと、マリコの心臓が苦しくなる。
『私、土門さんのことが…』
ようやく芽吹いた恋心。
でも、まだ陽は当たらない。
不安という日陰が小さな恋の芽を覆い隠してしまうからだ。
土門さんにとって、私はどんな存在なんだろう?
ずっと一緒にいたけど、そんな雰囲気になったことはない…と思う。
他の人より、少しくらいは特別なのかしら?
それとも、そんなの思い違いなのかな。
病院へ向かう車の中で、マリコの心は揺れていた。
マリコが自分を拉致した男の素性とその動機を知ったのは、精密検査を終えてからだった。
見舞いと聞き取りのために病院へ顔を出した蒲原から、マリコは全てを聞いたのだ。
「酷い逆恨みですよね。マリコさんには何の責任もないのに」
蒲原は憤慨していたが、当のマリコは少しだけ藤村に同情していた。
「藤村刑事にとって、お母さまは何よりも大切で、特別な存在だったんでしょうね」
「早くに父親を亡くして、母一人、子一人だったそうです」
「そう。だから宇佐見さんを…」
マリコは藤村との会話を思い出していた。
「きっとお母さまを亡くした深い悲しみを、私を恨むことでしか癒すことができなかったのね」
「だからって、奴のしたことは許されませんよ!」
「もちろんよ。私も許す気はないわ。でも理解はできる」
「マリコさん」
蒲原は納得できない、といった顔をしている。
「彼はどうなるの?」
「実刑は免れないでしょう。今、土門さんが送検に向けて準備を急いでいます」
現職の刑事が犯した犯罪だ。マスコミはセンセーショナルに報道するだろう。きっとマリコのことも話題にのぼるはずだ。
できるだけ速やかに送検し、この事件を収束させたい。そのために土門は昼夜を問わず、取り調べと裏付け捜査に明け暮れているのだろう。
「そう…」
「あの」
「なに?」
「土門さんから伝言をあづかってきました。『早く元気になれ、仕事が進まん』だそうです」
「土門さんらしいわね」
「素直じゃないですよね」
マリコと蒲原は顔を見合わせ、くすりと笑った。
to be continued…