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藤村はマリコを目の前に迷っていた。
はじめはさっさとマリコを殺して、この復讐を終わらせるつもりだった。でもよく考えれば、それでは自分の辛さや苦しみには釣り合わない。だから自分が母を失ったように、マリコからも何かを奪ってやろう…そう考えて、藤村はマリコの想い人らしき宇佐見という男の後をつけた。
しかしそこで藤村が見たのは、自分と同じように母を介護する宇佐見の姿だった。もし息子を失ったら…あの母親はどうなるのか。そんなことを考えだしたら、藤村は宇佐見に銃口を向けることが出来なくなってしまったのだ。
「もう終わりにしよう」
藤村はポツリとつぶやく。
座っていた椅子から立ち上がると、カバンにしまっておいた拳銃を取り出す。そして、まるで足かせでもついているかのように、一歩、また一歩、マリコヘと近づいていく。
藤村はマリコの正面に立つと、両足を踏ん張る。両手でしっかりと拳銃を握り、銃口をマリコの頭部へ向けた。
撃鉄へ親指をかける。
マリコは藤村の動きをスローモーション映像のように見つめていた。
――――― とうとうこれまでなのか。
諦めかけたマリコの瞳が藤村の拳銃を捉えた。
『ニューナンブ!?』
それは警察用の拳銃だった。
「あなた、警察官なの!?」
銃を構えた藤村の肩がピクリと動く。
「だったら?」
「私を殺したいほど憎んでいる理由を教えて。私が何をしたのか…」
マリコはこれまで、目の前の男は事件関係者で逆恨みが動機だとばかり思いこんでいた。それがまさか警察官だとは…驚きを隠せず、こんな状況でもマリコは恐怖心より好奇心が勝った。
「何をしたか?あんたは何もしてないよ」
やけっぱちな口調だった。
「え?何もしていないなら、なぜこんなことを?」
ますますマリコには男の動機がわからない。
「あんたは何もしてない。何もしていないくせに、余計な口を挟むからこういうことになったんだ!」
突然激高した藤村は、銃を握り直し、マリコに狙いを定めた。
「待って!どういうことなの?ねえ!」
「あの世でじっくり考えろ」
人差し指が引き金にかかる。
とっさにマリコは目を閉じた。
死ぬかもしれない恐怖に、求めたのは…。
『土門さん!!!』
<<<ダァーン>>>
空気を斬り裂く破裂音が刻を止める。
そして次の瞬間、うずくまったのはマリコではなく、腕を押さえた藤村だった。
「殺人未遂の現行犯だ。動くなよ。…蒲原!」
突入してきた土門は、未だ藤村に銃口を向けたまま、蒲原を呼んだ。
「はい!」
拳銃をホルダーに収めた蒲原は、代わりに手錠を取り出し、負傷した藤村の両手に嵌めた。
「連れて行け」
「ほら、立て!」
蒲原ともう一人の捜査員に両腕を抱えられる格好で、藤村は連行された。
「さか…」
マリコヘ声をかけようとした土門だったが…。
「マリコさん、大丈夫ですか!」
「マリコさん、怪我はないですか?」
「マリコさん、よかったぁ」
応援に来ていた君嶋、宇佐見、亜美が一足先にマリコを取り囲み無事を喜び合っている。
土門は少し離れた場所から、そんな様子を見ているだけだ。
ーーーーーー あいつが無事ならそれでいい。
to be continued…
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