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一方、土門と蒲原は科捜研と協力して、集まった防犯カメラの画像確認を急いだ。未だ犯人からの連絡はない。このままコンタクトを待っていてはマリコの身体が心配だ。加瀬も含めた7人の目が今朝の映像を追う。

「あ…」

小さく声を漏らしたのは亜美だった。

「見つけました!マリコさんが!!」

全員が亜美のもとへ駆け寄る。
覗き込んだモニタには、フルフェイスの男がマリコの顔に袋を被せ、倒れ込んだマリコを車で連れ去る様子が映っていた。

「榊…」

ギリッと土門は爪が食い込むほどに拳を握る。

「この映像では男の正体を判別するのは難しいね。ナンバーも隠れてる」

日野は冷静に説明するが、顔が怒りで赤らんでいた。

「私は藤倉部長に報告してくる。みんなは、この男の行き先を調べて」

「「「はい!」」」

それぞれがすぐに自分のデスクに戻り、映像を流し始める。
しかし土門は日野に近づき、声をかけた。

「所長。犯人は用意周到に榊を狙っていたように思えます。自分たちは怨恨の線から犯人を洗い出してみます」

「お願いします」

「必ず、必ず、見つけます」

誰に言うでもなく、土門はつぶやいていた。
そして蒲原を従え、捜査一課へ戻っていった。



「マリコさんに恨みを持つなら、事件関係者でしょうか?」

「だろうな。しかし、直接榊が恨まれるような事件となると限られそうなものだが…」

土門は蒲原と二人、マリコが関わった事件を数年前まで遡ってみた。机には調書の山ができ、端の方は今にも崩れ落ちそうだ。しかしそれだけ調べてみても、マリコを拉致するほどの深い恨みを持っているような人物は見つからずにいた。

「もしかして、事件関係者ではないんでしょうか…」

「他に考えられるとしたら、同業者か、榊の個人的な人間関係ということになるな」

「科捜研のみなさんにも聞いてみますか?」

「そうだな」

二人は再び科捜研へ場所を移した。



「科学者、ですか…」

「過去に榊とトラブルになったような科学者はいませんか?」

宇佐見は腕を組んで長いこと考えていたが、「いえ」と首を振った。

「私の知る限り、そういった人はいないと思います。もちろん、研究内容について議論することはありましたが、それは科学者なら当然のことですし、トラブルになるほどのことはありませんでした」

「私も知らないなぁ。マリコくんは強引だし、ムチャクチャだけど、何だか憎めないんだよね」

日野は苦笑する。
君嶋も亜美も、加瀬までもが頷いていた。

「そうですか。そうなると、もう榊の個人的な関係者としか………」

「ちょっと、ホントなの!?マリコさんが誘拐されたって!!!」

土門の言葉を遮るように、大声が轟いた。

「風丘先生」

「土門さん、本当なの?」

「はい。でもどうしてそれを?」

マリコの事件はまだ秘匿扱いのはずだ。

「廊下で藤倉部長に会ったら教えてくれた。みんなの力になって欲しいって頼まれたの」

土門は得心がいった。
藤倉ははじめから早月を仲間に引き入れるつもりだったのだろう。早月はマリコのためなら喜んで手を貸すだろうし、口外もしないと判断したのだ。

「風丘先生。榊のために力を貸してください」

「もちろんよ。で、何をすればいいの?」

「先生、榊を恨んでいる人物に心当たりはありませんか?」

「え?」

「犯人は入念に準備をして、榊を拉致しています。榊に恨みを持つ人間の犯行でしょう。だが事件関係者にも、科学者の中にも疑わしい人物が浮かんでこないんです。先生、誰か…思いつきませんか?」

「うーん。マリコさんを恨んでいる………」

早月は髪を掻き上げると、スマホを取り出し何かを調べだした。

「関係があるかわからないけど、これ…」

早月はスマホをテーブルに置いた。
そこにはある事件の記事が表示されていた。

「これは?」

「2年前、マリコさんが鑑定参考人として出廷したことがあったの。覚えてない?」

「ああ!愛知県警から依頼された事件だね」

「ええ。私も覚えています。確か…死亡推定時刻のことでしたね」

日野と宇佐見は顔を見合わせ口々に話す。

「そう。その時、マリコさんは検察側の証人として出廷したんだけど、結果として弁護側に有利となるような証言をしたのよ」

「え?」

土門にはまったくの初耳だった。

「マリコさんも悩んだみたいで、私のところに相談にきたの。でも話を聞いて、私もマリコさんと同じ意見を持った。だからマリコさんは科学に忠実な答えを出したの。でもそれで、検察や警察から恨みを買ったとは考えられない?」

「しかしそれが本当なら、マリコさんを拉致したのは警察関係者ということになりますね」

宇佐見が戸惑ったように、それでも口にした。

「だから『関係があるかわからない』って言ったでしょ」

だが、土門の刑事の勘は告げていた。
恐らくそれが真相だろうと。

「他に有力な手がかりが見つからない以上、調べてみる価値はある」

「本気?」

早月は探るように土門の顔を見た。

その目は、身内を疑うことになるとわかっているのか?と語っていた。

「自分の仕事は榊を助け出すことです」

誰にも邪魔はさせない。
土門の強い信念を感じ、早月はもう何も言うまいと決めた。

「土門さん。必ずマリコさんを見つけて」

土門は力強く頷いた。


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