村木レポート(仮)
皆さま、初めまして。
私、村木繁と申します。
警視庁科学捜査研究所所属の係官なのですが、現在は人事交流のため、京都府警科学捜査研究所に赴任中です。
京都はいいですよー。
美味しいものは沢山ありますし、景観は言うまでもなく雅でお洒落。
町を歩けば、舞妓さんや芸妓さんを見かけるなんて幸運もありますし。
難点をあげるとすれば、約一名とんでもなくはた迷惑な刑事が一人所属していることでしょうか?
まぁ、どうでもいいことですが……。
名前は糸村といいます。
どうでもいいことですがね!
今日はその糸村刑事のことではなく、京都府警科学捜査研究所の女性主任についてお話したいと思います。
その方は榊マリコさんと仰いまして、法医学研究員なのですが、この方がまた凄まじい美人で……。
あ、まぁ、それはさておき。
そこらの捜査員よりも、よっぽど優秀なんですね…まるで私のようです!
そしてもう一人ご紹介したいのは、この榊さんと常に行動を共にしている刑事さんで、土門薫警部補です。
あの糸村さんと同じ階級ながら、まるで月とスッポン。
土門刑事は遺留品一つに拘ることなく、事件の真相解明にいつもひたむきに邁進されています。
この二人のコンビネーションはとても素晴らしく、それは二人の解決してきた数々の事件が物語っています。
ただ私、村木は思うのです……。
この二人の阿吽の呼吸…それは果たして仕事上の付き合いだけで生まれるものでしょうか?
『気になりませんか?』
――― はっ!?
――― 糸村さんの口癖が乗り移ってしまいました!
そこで私、村木は、少々二人の様子を調査し、簡単なレポートにまとめてみました。
ご興味のある方は、以下をご覧ください。
《村木レポート(仮)》
○月○日 午前8時35分
府警玄関にて。
榊さん、土門刑事出勤。
【追記1】
榊さん、本日は自転車ではなく、土門刑事の自家用車にて出勤の模様。
ちなみに勤務予定表を参照したところ、2名とも昨日は非番と判明。
△月△日 午後1時15分
土門刑事、科捜研を来訪。
数件の鑑定依頼あり。なお、すべて榊さんへ依頼。
【追記2】
研究室にて二人で歓談する様子を目撃。
土門刑事より榊さんに昼食の差し入れあり。
サンドイッチとコーヒー、栄養ドリンクと推察される。(関係者証言により←ボクだよ~(^^)v)
×月×日 午後3時30分
榊さん、土門刑事、屋上にて休憩兼捜査会議?
屋上の扉影にて観察中、糸村さんから呼び出しあり。
糸村さんのせいで、惜しくも中断。(まったく!)
□月□日 午後10時
榊さん、土門刑事、帰宅。
【追記3】
榊さんは土門刑事の自家用車にて帰宅した模様。
尚、帰宅先は不明。
<結論>
以上の調査結果から、二人の関係性については現在のところ断定困難である。
特に【追記】案件については、さらなる継続調査を必要とする。
以上
***おまけ***
「おい、今日はいないな?」
土門はマリコの研究室内と、ブラインドからパブリックスペースをくまなく見回す。
「だれが?」
マリコはきょとんと返す。
「いや、いい……」
マリコは自分のことには、これでもかというくらい疎い。
「榊、ちょっと来い」
土門は研究室の奥からマリコを手招きする。
「なあに?」
マリコは差し入れのコーヒーを持ったまま、土門のもとに向かう。
土門は、そのコーヒーを取り上げる。
「今飲もうと思った……んっ」
テーブルに浅く寄りかかった土門は、マリコを引き寄せて、その唇を奪う。
ゆっくりとなぞるように。
少しずつ、深くまで侵していく。
満足した土門がマリコを解放する。
いつものように赤面したマリコは、不審そうに土門へたずねた。
「どうしたの、急に?」
「いや、なんでもない。お前の顔を見てたら急にしたくなった(笑)」
何なのそれ?とマリコは呆れ顔でコーヒーを奪い返すと、今しがた電子音の鳴ったプリンターに近づく。
印刷済みの紙を持って戻ってくると、はい、と土門に鑑定結果を渡す。
もう一度……と再びコーヒーに手をかけようとした土門からするりと身をかわし、マリコは土門を睨む。
「今日は鑑定が立て込んでるの!」
いたずらは、ほどほどに………って誰かが言ってました。
fin.
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