つまりは、そういうこと



「蒲原くん」

背後から呼ばれて、蒲原は振り返った。

新津にいつさん!」

「久しぶり、蒲原くん」

京都府警捜査一課の蒲原巡査部長を「くん」づけで呼ぶこの女性は、新津祐奈にいつゆうな。京都府警の管轄区域に所属する交番勤務の巡査だ。蒲原とは警察学校の同期にあたる。

「新津さん、元気そうだね。今日はどうしたの?」

「うん。研修」

「そうか。お疲れ様」

「ありがとう。蒲原くん。突然だけど、今夜予定ある?」

「いや、ないけど」

「久しぶりにご飯でも行かない?」

「いいよ………っと、ごめん」

蒲原は祐奈に手を挙げると、ポケットで鳴るスマホを取り出した。

「はい。蒲原です。…え?……はい。今から向かえば今日中には何とか。はい、はい。わかりました」

蒲原は腕時計を確認すると、通話を終えた。

「ごめん、新津さん」

「もしかして、今から聞き込み?」

「うん。鑑定にどうしても必要らしくてさ」

「鑑定?」

「あ、そう。科捜研からの依頼なんだ」

祐奈は呆気に取られた。定時まであと30分もない。
そんな時間から聞き込みに行くことも驚きだし、ましてや科捜研からの依頼?
普通は逆で、刑事が科捜研に依頼するのではないか?

「明日じゃダメなの?」

「マリコさんが待ってるから…」

「マリコさん?」

「うん。科捜研の研究員。優秀な女性なんだ。これまでマリコさんの協力でいくつも事件を解決できたんだよ」

「だからって…」

祐奈は不服そうに、自然と唇を突き出してしまった。

「ほんと、ごめん。新津さん、研修は今日だけ?」

「ううん。まだ何回かあるけど…」

「じゃあ、次回はきっと」

「……………わかった。頑張って」

「ありがとう!」

蒲原は祐奈への挨拶もそこそこに刑事課を出て行ってしまった。



祐奈は警察学校の頃から蒲原に好意を持っていた。ルックスはいいのに、真面目すぎて周りからイジられる…そんなギャプが可愛らしく思えたからだ。
でも、告白はしなかった。
同期の中では警察学校にいる間に成立したカップルも数組あった。
ただ、祐奈は刑事になることを目指していた。蒲原も同じだった。だからその夢が叶うまで、まずは仕事に全力を注ぐと祐奈は決めた。
そして、蒲原は一足先に刑事となった。
祐奈にはまだ、夢のゴールは見えずにいる。


「何なのよ。マリコさん、マリコさんて…」

一人で帰りの電車に揺られ、祐奈は蒲原とのやり取りを思い返していた。話の感じでは恋人というわけではなさそうだ。片思いか、ただ純粋にその女性へ尊敬の念を抱いているだけなのかもしれない。
そうだとしても。

「面白くない」

それが祐奈の本心だった。


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