one−one−one−one
「ねえ、土門さん。今日って○ッキ…の日なんでしょ?」
背後の話し声に遮られ途中を聞き逃したものの、土門はマリコの口から飛び出した単語にギョッとした。
「はあ!?」
「だから、○ッキ…の日」
またしても聞き取れなかったが、土門にはもうそれ以外には聞こえなかった。
「そ、そう…なのか?」
「若い女の子たちが、廊下で話していたのよ」
神聖な職場でなんて会話をしているんだ…土門は頭を抱えたくなった。
「付き合っている男女はみんなやるって聞こえてきたの。もしかして、その………土門さんもやりたいのかなぁって思って」
「なっ!!!!!」
土門は金魚のように口をパクパクさせる。
土門も健全な男だ。
そういうことをしたくないと言えば嘘になる。
いや、むしろ、積極的にしたいというのが本音だ。
しかし……。
土門は迷った末、正直に答えることにした。
「お前が嫌じゃないなら、俺は……やりたい」
思春期でもあるまいに、心臓の音がうるさい。
「………うん」
マリコは恥ずかしそうにうつむく。
「いいのか!?」
「私だって土門さんに喜んでもらいたいもの。でも、上手くできるかしら…先端を咥えるのよね?」
「ばっ!そんなこと、こんな場所で!!!」
土門は慌ててマリコの口を手で塞ぐ。
興奮して思わず力んでしまったようだ。
マリコは呻きながら、土門の腕を叩いて抗議する。
「す、すまん」
「もう、馬鹿力なんだから」
マリコが乱れた髪を直していると、「マリコさーん」と聞き慣れた声がした。
少し離れたところから亜美が手を振り、近づいてくる。
「土門さんも一緒だったんですね。ちょうどよかった」
「?」
土門は意味が分からず、訝しげな表情だ。
「買ってきました」
はい、と見慣れた赤い箱を亜美がマリコへ手渡した。
「亜美ちゃん、ありがとう」
「お安い御用でーす。増量中みたいだから、何度もできますよっ♡」
亜美は土門を見ると、意味ありげにニヤリと笑う。
「私、先に戻りますね」
「あ、私も行くわ」
「マリコさんはどうぞごゆっくり」
「もう!からかわないで」
何故かマリコは頬を赤くしている。
亜美が行ってしまうと、土門はマリコへ尋ねた。
「涌田のやつ、何度もできるとか…何の話だ?」
「これよ」
マリコが土門に見せたのはポッキーの箱。
「!?」
ようやく土門は合点がいった。
今日は11月11日。
つまり“○ッキ”ではなく、ポッキーの日だ。
一人で変な勘違いをしていた土門は、顔を擦り、伸びかけていた鼻の下を整えた。
「土門さん。今日、土門さんの家に行ってもいい?」
「その箱、忘れるなよ」
マリコは恥ずかしそうに、それでもコクリとうなずく。
「楽しみにしてるぞ」
「土門さんのエッチ!」
小さく睨むと、マリコはそそくさと立ち去る。
その姿を見送りながら、土門は考える。
ポッキーゲームからのイケナイ流れを。
『土門さんに喜んでもらいたい』と榊が言ったから、11月11日は○ッキ記念日。
fin.
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