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「あなた!あなた!!」
玄関から大きな声が少尉を呼ぶ。
今まで新聞を読んでいた土門少尉は、何事かと立ち上がった。
「どうしたんだ、マリコ」
「あなた、泰乃さんのご主人から手紙が届いたの。無事に双子の女の子を出産したって!泰乃さんも、泰乃さんも無事だって。よかった……」
マリコは最初、興奮気味に話していたが、安心して気が抜けたのか、ぺたんと廊下に座り込んでしまった。
そして声を詰まらせ、手紙を胸元に抱いた。
紙を押さえる指が小刻みに震えている。
少尉はマリコの向かいにしゃがみ込むと、そっと妻の体を抱きしめた。
「よかったな、マリコ」
「………………」
声にならないマリコは、ただただ頷く。
落ち着いた頃、二人で会いに行こう
「………は、い」
「出産祝いは何がいいのか、調べておいてくれ。私にはさっぱりわからない」
「そう、ですね。何がいいかしら…」
少尉の提案に、マリコは気力を取り戻したようだ
「やっぱりお揃いのお洋服かしら」
「マリコにまかせるよ」
「来週、お買い物に行ってもいいですか?」
「まだ早いんじゃないか?」
「下見をしておきたいんです」
「わかった、わかった」
俄然やる気に満ちたマリコの様子に、少尉は笑う。
「この機に色々勉強しておこう」
「勉強、ですか?」
「そうだ。私たちもそろそろ…」
意味を理解したマリコは耳まで赤くなる。
「あなたみたいな男の子だったら嬉しい」
はにかみながら望みを口にするマリコだったが、少尉は渋い顔をする。
「それは困る」
「え?なぜですか?」
「一番手強い敵になるに決まっている」
「?」
マリコは夫が何を言っているのか、よくわからないようだ。
「マリコは私だけのものだ。息子でも渡す気はないっ!」
鼻息荒く不機嫌な夫に、マリコは「まぁ」と目を丸くした後でクスクス笑う。
「あなたったら、子どもみたい」
子供扱いにますますへそを曲げた少尉は妻の顎に手をかけると、まだ笑っている唇を強引に塞いだ。
「子どもじゃないことを証明してやろう」
予期せぬ話の流れに焦るマリコだったが、体の大きな駄々っ子は、そんなマリコをギュッと抱きしめる。
誰にも譲れない、譲らない。
この世界で一番大切な
This is the end.
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