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泰乃の家の片付けを終え、二人が帰宅したころには、空には夕月の姿があった。

玄関の扉を閉めたところで、土門少尉はマリコの背後から腕を回した。

「あなた?」

「すまない、マリコ。つまらん嫉妬をした。私は情けない男だ」

あまり聞いたことのない落ち込んだ声に、マリコは夫の腕に手を添えた。

「私、本当はちょっと嬉しかったです」

「え?」

「いつも大人なあなたが、私のために泰乃さんの家まで来てくれたこと」

「もし他の男と一緒にいたら、引きずってでも連れ帰るつもりだった」

「そんなこと、絶対にありません」

「本当か?」

「本当です。あなたこそ、他の女の人を選ばないでくださいね」

「あり得ん」

「そうかしら?」

「なに?」

「だって、あなたは………」

「なんだ?」

「その。女の人に人気があるんですもの」

消え入りそうな声。
逆に、少尉は盛大なため息を吐く。

「それはマリコの方だ。一緒に歩いていて、どれだけの男が振り返ると思うんだ?」

「そんなことありません。私より、あなたのほうが…」

何度かこんな犬も食わないやり取りをした後で、少尉は言った。

「マリコ。今度の休みは、この前行かれなかった映画に行こう」

「…………ええ」

マリコは少しだけ返事にためらった。

「どうした?」

「やっぱり気になってしまって。大丈夫かしら、泰乃さん」

少尉は腕を解いて、マリコと向き合う。

「ここにも気にして欲しい男がいるんだが?」

くいっと眉を上げて、やや不機嫌顔な少尉。
『いけない!』と気づいたマリコは慌てる。

「あなた、ごめんなさい………きゃあ!」

マリコの体は浮き上がり、パンプスがコトンと落ちた。

「許さない」

愛しい妻へのお仕置きには、息が止まるほどの口づけと、溺れそうな愛情をそそぐことにしよう。

今宵…月だけが見ている。


fin.


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