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こんな甘い新婚生活を送る二人だが、半月後、再びマリコは泰乃に呼び出された。
そしてそれからというもの、マリコは休みのたびに泰乃のもとを訪れた。しかし、そのことが夫である土門少尉にあらぬ疑念を抱かせることになったのだ。
「マリコ。今日も出かけるのか?」
「はい。すみません。昼過ぎには戻りますから」
「…………………」
いつもそう言って、帰ってくるのは夕方になる。
土門少尉は、マリコが本当に女学校の後輩だという泰乃と会っているのか、疑いを感じていた。
それにはマリコの服装も関係している。
たまに会う友人と出かけるために着飾るのはわかる。しかし、こうも頻繁に会う相手のために、マリコは時間をかけて服を選び出かけるのだ。
『もしや、どこかの男と……?』
そう、少尉が考えてしまうのも無理からぬことだろう。
「マリコ。今日は家に居てくれないか?」
「え?あの、何か用事がありますか?」
「用事がなければいけないのか?」
「そういうわけでは…」
「平日はマリコとゆっくり話す時間も取れない。休みの日ぐらい一緒に散歩をしたり、二人で食事をしたりしたい、そう思うのはおかしいか?」
「あなた…」
マリコだって申し訳なく思う気持ちは、もちろんある。しかし今日はどうしても夫の頼みを聞き入れることはできないのだ。
「ごめんなさい。次のお休みには家にいるようにします。でも今日は行かせてください」
「泰乃さんと会うことは、私の願いよりも大切なのか?」
「困らせないで、あなた」
「………だったら、出かければいい。無理に早く帰る必要もない!」
少尉は声を荒げると、自室に籠もってしまった。
マリコに寛容な夫が、ここまで不機嫌さを顕にするのははじめてだ。
「ごめんなさい、あなた」
うなだれたまま、それでもマリコは出かけていった。
玄関の閉まる音が聞こえると、少尉は深いため息を吐いた。気持ちを落ち着けるために本を開くが、一文字も頭に入ってこない。
考えるのは、ただマリコのこと。
心配。不安。疑念。
………恐怖。
少尉は恐れていた。マリコがいつか自分の腕の中かな飛んでいってしまうのではないか、と。
「情けない男だな」
自嘲したところで、負の感情はなくならない。
それほどまでに求めている。
失いたくない。
本当は閉じ込めて、誰にも見せたくない。
だけど、そんなことをすればマリコから笑顔が消えるだろう。
それは違う。それでは駄目なのだ。
土門少尉はマリコを愛している。
愛しているからこそ、幸せそうに微笑むマリコを見ていたい。隣で。いつまでも。
少尉は立ち上がると電話帳を開いた。
このままでは何も変わらない。
土門少尉は何本かの電話の後、身支度を整えると家を出た。