京都殺意の旅



「土門さん。お疲れさまでした」

千津川が土門に労いの言葉をかけた。

「千津川警部、今日はつき合わせてしまってすみません」

「いいえ。名裁きでした。私も勉強になりました」

「やめてください。捜査一課の警部にそんなこと…」

「ははは。それにしても、本当に二人はいいコンビだ」

そういうと、千津川はマリコに微笑んだ。

「榊さん。この際、土門さんと人生の上でもコンビを組んでみたらどうですか?」

「千津川警部っ!!!!」

土門、焦る。
しかし気にした様子もなく、千津川は続けた。

「榊さん。私と尚子を見て、どう思いましたか?」

「とても素敵なご夫婦だと思いました」

「尚子は立派なキャリアウーマンです。私は彼女の仕事を尊敬しているし、彼女もしてくれている。互いに依存しない。自立したパートナーは実に心強いですよ。何より夫婦になったことで、共に過ごす時間が増えました」

「共に過ごす時間……」

ポツリ呟くマリコは思案顔だ。

「せ、千津川警部。駅まで送ります。行きましょう!」

急かす土門に、千津川は首を振った。

「いえ、タクシーを呼ぶので大丈夫ですよ」

「し、しかし」

「土門さん。尚子が感謝していました。事件には遭遇しましたが、それでも楽しい夫婦旅行でした。ありがとうございます」

「いえ、かえって申し訳なかったです。こちらこそ、尚子さんによろしくお伝えください」

「わかりました。ああ、榊さん」

「はい?」

まだ考え込んでいたマリコは、呼ばれて顔を上げた。

「私の提案の答え、近いうちに聞かせてください。では、また!」

爽やかな笑顔を見せると、弱り顔の土門を残し、千津川は颯爽と立ち去った。彼はこれから帰るのだ。最強で最愛の相棒のもとへ。

「ちゃんと一人で帰れるさ。君の待つ我が家へね」



「あー、榊」

「なに?」

「その、気にするな」

土門はポリポリと米上を掻く。

「何を?」

「千津川警部の…言ったことだ」

「『土門さんと人生の上でもコンビを組んでみたら』って提案?」

マリコは千津川警部のセリフを繰り返す。

「警部の思いつきだ。忘れろ」

「なぜ?」

「な、なぜって、お前…」

狼狽える土門とは反対に、マリコは落ち着いたものだ。

「もしかして、その気がある……わけないよな。ははは」

「……るわね」

「ん?」

「コンビ名によるわね。それによっては考えないこともないわ」

「は?コンビ名って、お前、何言ってんだ」

「いい名前考えてよね、土門さん!」

ポンッと土門の腕を叩くと、「帰りましょう」とマリコは歩き出す。

「おい、待てよ。榊!」

慌てて追いかけてくる土門をマリコは振り返る。
こんな時間が増えるなら、今とは違う…新しいカタチになってみるのもいいかもしれない。

ーーーーー 土門さんとなら。

「まずは検証ね」とマリコは少しワクワクしてきた。


「土門さん。待ってるから、早くしてね!」

「え?」

何もない床で土門が躓きそうになったとしても、それは仕方のないことだろう。



fin.


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