アラカルト
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150000番を踏んでいただき、ありがとうございます!
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遅れ遅れになった夏休み。
二人は小旅行に出かけた。
鄙びた温泉宿で溜まった疲れを癒そうと計画してのことだった。
そういう理由から車ではなく、二人はあえてのんびりとした列車の旅を選択した。
予約した特急列車に乗り込んだ二人。
平日の昼間だからか…一車両に数人しか乗客はいなかった。
土門は網棚に乗せたかばんを下ろすと、なにやらゴソゴソと大きな袋を取りだした。
「食べるか?」
その中身は実に様々なお菓子が入っていた。
「どうしたの、これ?」
マリコは目を丸くしている。
「昨日スーパーに寄ったら、あれもこれも食べてみたくなってな」
年甲斐もなく…と土門は照れた様子で項を掻く。
「わぁ!これ、懐かしいわね」
マリコはお菓子の箱を開けると、取りだした三角コーンのスナックを指先に被せた。
「よくこうして遊ばなかった?」
「ああ、やったな」
土門は笑いながら、その一つをパクリと口に入れた。
「あ、食べられちゃったわ」
落胆しつつもマリコは楽しそうだ。
「これは知ってるか?」
今度はポテトチップスの袋を開け、2枚取り出すと、そり返る方向に合わせて土門は口に挟んだ。
「すごいタラコ唇ね!」
「アヒル口だ!」
「あ、なるほど。私もやってみたいわ!」
さっそくマリコもチャレンジしてみた。
「ははは。ディズニーのキャラクターみたいだぞ」
ひとしきり笑うと、土門はマリコに顔を近づけ、唇に挟んだポテトチップスをパリパリと食べ始めた。
焦ったマリコは土門を押し返すけれど、土門はそのまま食べ続ける。
パリッ、パリッ、パリッ………。
そして最後は小さなリップ音。
「もう!誰かに見られたらどうするの?」
「他の乗客はみんな前の席だ。見られることはないさ」
そういいながら、今度は普通にマリコの唇を味わう。
「そうだ。これも懐かしいよな」
次に土門が取り出したのは、小さな輪っかのスナック菓子。
それをマリコの指に乗せた。
「昔はこれを一つずつ食べなかったか?」
「食べたわね。こんなふうに」
マリコはパクリとお菓子を口に入れると、軽い音を立てて咀嚼した。
5本の指の中で、小指の隣だけ輪っかが消えてしまった。
「新しいのが必要だな」
土門はお菓子の消えた指に、今度は決して消えない輪っかを嵌めた。
「……………え?」
「こいつは食べるなよ?」
「そんな、こと…しない、わよ」
マリコはサプライズに胸が一杯で、うまくしゃべることができない。
「旅行の間はつけていてくれるか?」
「もちろんよ。帰ってからも外したくないわ。だめ…かしら?」
これを嵌めたままだと、みんなに二人の関係がバレてしまうかもしれない。
「かまわん。隠すようなことじゃないだろう。お前は俺のもんだ」
ぐっと土門はマリコの肩を抱く。
「新婚旅行の練習だな」
「ええ?何を練習するの?」
マリコはププッと笑う。
「そりゃ、“ナニ”だろう?」
ニヤリと笑う土門に、今度は赤面する。
「また、そういう事言って!」
「しょうがないだろう。これでも浮かれてるんだ」
「土門さん…」
「楽しい思い出を作ろう、榊」
「ええ!」
「それじゃあ、まずは…」
繋いだ手の中で、銀色のリングがキラリと光る。
そして列車の窓には、唇を重ねた二人の姿がひっそりと映っていた。
特急列車はまもなく目的地だ。
けれど、二人の列車はようやく走り出したばかり。
これからも。
~恋路は続くよ、どこまでも~。
fin.