アラカルト



▶150000番さまへのお礼

150000番を踏んでいただき、ありがとうございます!

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遅れ遅れになった夏休み。
二人は小旅行に出かけた。
鄙びた温泉宿で溜まった疲れを癒そうと計画してのことだった。
そういう理由から車ではなく、二人はあえてのんびりとした列車の旅を選択した。

予約した特急列車に乗り込んだ二人。
平日の昼間だからか…一車両に数人しか乗客はいなかった。

土門は網棚に乗せたかばんを下ろすと、なにやらゴソゴソと大きな袋を取りだした。

「食べるか?」

その中身は実に様々なお菓子が入っていた。

「どうしたの、これ?」

マリコは目を丸くしている。

「昨日スーパーに寄ったら、あれもこれも食べてみたくなってな」

年甲斐もなく…と土門は照れた様子で項を掻く。

「わぁ!これ、懐かしいわね」

マリコはお菓子の箱を開けると、取りだした三角コーンのスナックを指先に被せた。

「よくこうして遊ばなかった?」

「ああ、やったな」

土門は笑いながら、その一つをパクリと口に入れた。

「あ、食べられちゃったわ」

落胆しつつもマリコは楽しそうだ。

「これは知ってるか?」

今度はポテトチップスの袋を開け、2枚取り出すと、そり返る方向に合わせて土門は口に挟んだ。

「すごいタラコ唇ね!」

「アヒル口だ!」

「あ、なるほど。私もやってみたいわ!」

さっそくマリコもチャレンジしてみた。

「ははは。ディズニーのキャラクターみたいだぞ」

ひとしきり笑うと、土門はマリコに顔を近づけ、唇に挟んだポテトチップスをパリパリと食べ始めた。

焦ったマリコは土門を押し返すけれど、土門はそのまま食べ続ける。

パリッ、パリッ、パリッ………。

そして最後は小さなリップ音。

「もう!誰かに見られたらどうするの?」

「他の乗客はみんな前の席だ。見られることはないさ」

そういいながら、今度は普通にマリコの唇を味わう。

「そうだ。これも懐かしいよな」

次に土門が取り出したのは、小さな輪っかのスナック菓子。
それをマリコの指に乗せた。

「昔はこれを一つずつ食べなかったか?」

「食べたわね。こんなふうに」

マリコはパクリとお菓子を口に入れると、軽い音を立てて咀嚼した。

5本の指の中で、小指の隣だけ輪っかが消えてしまった。

「新しいのが必要だな」

土門はお菓子の消えた指に、今度は決して消えない輪っかを嵌めた。

「……………え?」

「こいつは食べるなよ?」

「そんな、こと…しない、わよ」

マリコはサプライズに胸が一杯で、うまくしゃべることができない。

「旅行の間はつけていてくれるか?」

「もちろんよ。帰ってからも外したくないわ。だめ…かしら?」

これを嵌めたままだと、みんなに二人の関係がバレてしまうかもしれない。

「かまわん。隠すようなことじゃないだろう。お前は俺のもんだ」

ぐっと土門はマリコの肩を抱く。

「新婚旅行の練習だな」

「ええ?何を練習するの?」

マリコはププッと笑う。

「そりゃ、“ナニ”だろう?」

ニヤリと笑う土門に、今度は赤面する。

「また、そういう事言って!」

「しょうがないだろう。これでも浮かれてるんだ」

「土門さん…」

「楽しい思い出を作ろう、榊」

「ええ!」

「それじゃあ、まずは…」

繋いだ手の中で、銀色のリングがキラリと光る。
そして列車の窓には、唇を重ねた二人の姿がひっそりと映っていた。


特急列車はまもなく目的地だ。
けれど、二人の列車はようやく走り出したばかり。
これからも。

~恋路は続くよ、どこまでも~。



fin.


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