アラカルト
▶110000番さまへのお礼
110000番を踏んでいただき、ありがとうございます!
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「この分析結果を見る限り、死亡推定時刻は解剖結果の方が正しいと思うわ」
椅子に座ったまま、マリコはデスクに寄りかかる土門を見上げる。
「しかし、それなら防犯カメラの映像はどう説明する?明らかにその時間、被害者が映っているんだぞ?」
「それは……」
「ここで議論していても答えは出ないな。防犯カメラ映像の解析と、解剖結果の再検証を頼む」
「ええ。そうね。やってみるわ」
「頼む。ん?」
土門はマリコの顔を見て、あることが気になった。
「榊…」
「なに?」
「……………」
土門は目を細め、じっとマリコの顔を見つめる。
すると、徐に立ち上がり…。
マリコは焦った。
土門の顔が徐々に近づいてくるのだ。
え?
待って!
土門さん、ここ、科捜研…私の職場よ。
分かってるわよね?
ああ、でもすごく真剣な顔で私の目を見つめてくる…。
ううん、でもダメよ。
だって、まだ皆がいる、か、も…。
だけど…………。
マリコはドギマギしながら、それでも目を閉じた。
よく近づいてみると、マリコの睫毛に付いていたのは、小さなゴミのようだった。
このまま眼球に入れば、かなり痛むだろう。
その前に取り除いてやろうと、土門は手を伸ばした。
そのとき……。
な、なに!?
榊、何をしてるんだ?
閉じられた瞳に、土門の心臓が跳ね上がる。
ここは、科捜研で、今は職務中………ん?
さっと壁掛時計を確認すれば、とうに定時を過ぎている。
ということは、職務中ではないか。
いや、でも皆が……。
ちらり、とパプリックスペースに目をやれば、今は誰もいない。
い、いかん。ここは神聖な職場。
だが………。
土門の目は、キス待ち顔のマリコに釘付けになる。
ゴクリ。
落ち着け。
よく考えろ。
自分は刑事で、ここは榊の職場だ。
ふしだらな行為など、絶対に………。
しかし、もう勤務時間は過ぎている。
それに、誰も見てはいない……。
ということは。
これは。
もしや?
『アタックチャーンス!?』
土門は淡いピンクに彩られた唇に狙いを定める。
あと10センチ。
5センチ、3センチ、1センチ………。
「マリコさぁーん!結果出たよ!」
バーンと飛び込んで来たのは呂太。
「わざとかーいっ!」と突っ込みたくなるほどのタイミングの良さだ。
ところが。
「あれ?マリコさん…いない」
キョロキョロ室内を見回してもマリコの姿は見えず、呂太は訝しみながら部屋を出ていった。
「間一髪だったな」
「ええ」
机の下に潜り込んだ二人は、ほっと安堵の息をつく。
「本当にビックリしたわ」
のそのそと、狭いスペースから這い出ようとするマリコ。
「ちょっと、待て」
「なに?」
「折角のアタックチャンスだ」
「アタック…なんですって?」
「何でもない。ほら、仕切り直しだ」
そういうと、土門は“チュウ”ぶらりんになったキスを、と“チュウ”からやり直す。
秘密のキスをまんまと奪い、「アタックチャンス」を見事モノにした土門であった。
お“チュウ”まい(笑)