アラカルト
49000番さまへのお礼
49000番を踏んでいただき、ありがとうございます!
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1月も10日を過ぎると、だいぶ正月気分が抜け、世間も普段通りの生活へと戻っていく。
だからだろうか。
この神社も参拝客はほとんどいない。
数分前に、年配の女性を一人見かけただけだ。
今年は二人の休みの日が合わず、ようやく今日、土門とマリコは初詣にやって来た。
「せっかくの休みだったのに、平安神宮とかじゃなくて良かったのか?帰りに旨いものでも…と思ったんだが」
「いいの。氏神さまで十分だわ。それに美味しいものなら、土門さんの手料理があるじゃない?」
「なんだ?また俺が作るのか?」
うんざりした声色のわりに、意外と嬉しそうな土門の表情に、マリコは気づいていた。
土門が警察学校へ異動したことで、これまでより二人の時間が多くなった。
最近では二人でキッチンに立ち、調理する土門をマリコがサポートするようになっていた。
そんな関係性を土門は気に入っていた。
事件以外でマリコと協力し合うことが新鮮で、何よりも楽しかったのだ。
手水舎で並んで手を洗う。
凍えるような冷たさに、ピンと背筋が伸びた。
そして二人でお参りをする。
土門もマリコも、ずいぶんと長いこと手を合わせた。
「熱心に祈っていたな?」
「そう?土門さんも同じくらいだったじゃない?」
「そうか?」
互いに何を祈ったのか、聞かない、たずねない。
去年の暮れは、二人にとって本当に様々なことがあった。
それぞれの胸に残った思いは、そう簡単に消えたり、消化し切ることはできないだろう。
それでも、新たな年を歩み始める。
今までとは違う立場になったとしても、目的は変わらない。
犯罪を防ぎ、悲しむ被害者を無くすこと。
そして。
榊が。
土門さんが。
『幸せであること』
まだ、ある。
『その隣に、自分が立っていること』
きっと、氏神さまは思っておられるだろう。
何から何まで…この二人の願いは同じだ、と。
同じ願いなら、叶えるのは簡単だ…と。
二人と入れ違うように、振り袖姿の女性がやって来た。
「ああ!今日は成人の日か」
「もう成人式が終わったのね」
「そういえば、お前も着物を着たのか?」
「え?ええ。母さんが張り切っちゃって……」
その時の様子が目に浮かぶようだと、土門は苦笑する。
「どんなのを着たんだ?」
「え?普通よ。ピンク色の振り袖と、白いマフラーだったわね」
「ほう…………」
「なに?」
マリコは嫌な予感がした。
その先に続く言葉が想像できる。
「そりゃ…………」
「………」
「綺麗だったろうな」
「え!?」
てっきりいつもの『馬子にも……』と続くと思っていたマリコは、拍子抜けしてしまった。
「何て顔してる?」
きょとんとしたままのマリコが可笑しくて、土門は声をあげて笑う。
「だって、そんなこと言うなんて……」
「本心だぞ。そうだ、また着物姿を見せてくれないか?お前は着物がよく似合う」
「………」
そういえば…とマリコは思い返してみる。
最近になって、土門はこういう言葉をマリコへストレートに伝えるようになっていた。
どういう心境の変化なのか、有雨子のことと関係があるのか、それは土門にしか分からない。
それでも。
――――― 嬉しい。
少し俯いて、顔を赤らめるマリコを、土門は優し気に見つめる。
さて、もう二つも叶えてしまった。
二人が幸せであること。
二人がともに在ること。
それらは、これから先も……。
何とも働き者の氏神さまである。
fin.