アラカルト




48000番さまへのお礼



48000番を踏んでいただき、ありがとうございます!


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間もなく令和最初の年も過ぎ去ろうかという頃、マリコのスマホが着信を告げた。
見れば、土門からだ。

今日は警察学校の職員同士で納会だと言っていたはずなのに……。

「もしもし、土門さん?」
『すまんな。大晦日のこんな時間に…』

「ううん。どうしたの?」
『いや………』

自分から掛けてきたというのに、土門の歯切れはひどく悪かった。

『この間のことがあったからか、どうも落ち着かなくてな……』

ぼそぼそと話す声は聞き取りづらい。
納会も早めにあがった…、辛うじてそう聞き取れた。

ああ…、とマリコはすぐに納得した。

20年前のミレニアム・カウントダウン。
その日から始まった一連の出来事は、現在の土門の人生にまで大きな影響を及ぼした。
大晦日に心がざわめくのは当然だろう。

そんなときに自分を頼って電話を掛けてきてくれたことが、マリコは嬉しかった。

「土門さん、明日は仕事?」
『いや、さすがに休みだ。お前は?』

「午後に結果が出る鑑定があるの。でもそれまでは…。ねえ、土門さん、今から会わない?」
『ん?』

「一緒に新年をお祝いしましょうよ。京都タワーの入口で待ってるわ」

そういうと、返事も聞かずに電話は切れた。

土門は舌打ちの後、あたふたと身支度を整えると、車のキーを手に玄関を駆け出した。



大晦日だからか、この時間にしては人出が多かった。
しかし、夕方から天候は下り坂で、外はみぞれ混じりの雨が降っている。


「榊!」
「土門さん!」

二人の吐く息は真っ白だ。

「風邪をひく。早く中に入ろう」
「でも、随分と混雑しているみたいよ……。ここでいいわ。あと数分だもの」

遠くから「今年もあと5分!」というカウントダウンの声が聞こえた。


「土門さん」

マリコはふいに自分の傘をたたむと、土門の傘下に入る。

「何だ?」
「傘が……………隠してくれるわよね?」

マリコは少しだけ背を伸ばし、掠れた声で土門にたずねた。

耳に響く、甘い囁き。
誘われるように、土門はその言葉を紡ぐ唇を味わう。

暫く、辺りには霙混じりの雨が傘を弾く音しか聞こえない。
まるで二人だけの世界のようだ。


惜しみながら、土門はマリコから離れた。
目の前のマリコの慈愛に満ちた微笑みと、温かな唇の感触が忘れられない。

「来年も……」
「?」

「その先も。新しい年を迎えることができなくなるそのときまで……、お前とこうしていることはできないだろうか?」
「……………」

マリコは困ったような顔をしている。

「すまん。……忘れてくれ」
「違うわ。私が先に言うつもりだったから、自分が答えるなんて思っていなくて……」

「榊?」

マリコは土門の手を握る。
互いに手袋もはめていない手はかじかみ、氷のように冷たい。
しばらく握りあっていると、少しずつだがじんわりと温もりが生まれる。

「一人じゃないから、温かいのよね……」

確認するように、マリコは土門の手をぎゅっと握る。

「そう……だな。二人だから温かい」

土門はマリコの顔を見つめる。

「そして、その相手がお前だから……離したくない」

土門はぐいと繋がった手を引き、マリコを抱きよせた。

「ねえ、土門さん」
「なんだ?」

「……………きっとできるわよ」

胸元からくぐもったマリコの声が聞こえる。
土門は知らず、口元が綻んでいた。

「……そうか」
「うん」

そのまま二人 ――――― 。
シルエットは重なったままだ。

まるで12時を指す、時計の針のように。




fin.




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