アラカルト
48000番さまへのお礼
48000番を踏んでいただき、ありがとうございます!
**********
間もなく令和最初の年も過ぎ去ろうかという頃、マリコのスマホが着信を告げた。
見れば、土門からだ。
今日は警察学校の職員同士で納会だと言っていたはずなのに……。
「もしもし、土門さん?」
『すまんな。大晦日のこんな時間に…』
「ううん。どうしたの?」
『いや………』
自分から掛けてきたというのに、土門の歯切れはひどく悪かった。
『この間のことがあったからか、どうも落ち着かなくてな……』
ぼそぼそと話す声は聞き取りづらい。
納会も早めにあがった…、辛うじてそう聞き取れた。
ああ…、とマリコはすぐに納得した。
20年前のミレニアム・カウントダウン。
その日から始まった一連の出来事は、現在の土門の人生にまで大きな影響を及ぼした。
大晦日に心がざわめくのは当然だろう。
そんなときに自分を頼って電話を掛けてきてくれたことが、マリコは嬉しかった。
「土門さん、明日は仕事?」
『いや、さすがに休みだ。お前は?』
「午後に結果が出る鑑定があるの。でもそれまでは…。ねえ、土門さん、今から会わない?」
『ん?』
「一緒に新年をお祝いしましょうよ。京都タワーの入口で待ってるわ」
そういうと、返事も聞かずに電話は切れた。
土門は舌打ちの後、あたふたと身支度を整えると、車のキーを手に玄関を駆け出した。
大晦日だからか、この時間にしては人出が多かった。
しかし、夕方から天候は下り坂で、外は
「榊!」
「土門さん!」
二人の吐く息は真っ白だ。
「風邪をひく。早く中に入ろう」
「でも、随分と混雑しているみたいよ……。ここでいいわ。あと数分だもの」
遠くから「今年もあと5分!」というカウントダウンの声が聞こえた。
「土門さん」
マリコはふいに自分の傘をたたむと、土門の傘下に入る。
「何だ?」
「傘が……………隠してくれるわよね?」
マリコは少しだけ背を伸ばし、掠れた声で土門にたずねた。
耳に響く、甘い囁き。
誘われるように、土門はその言葉を紡ぐ唇を味わう。
暫く、辺りには霙混じりの雨が傘を弾く音しか聞こえない。
まるで二人だけの世界のようだ。
惜しみながら、土門はマリコから離れた。
目の前のマリコの慈愛に満ちた微笑みと、温かな唇の感触が忘れられない。
「来年も……」
「?」
「その先も。新しい年を迎えることができなくなるそのときまで……、お前とこうしていることはできないだろうか?」
「……………」
マリコは困ったような顔をしている。
「すまん。……忘れてくれ」
「違うわ。私が先に言うつもりだったから、自分が答えるなんて思っていなくて……」
「榊?」
マリコは土門の手を握る。
互いに手袋もはめていない手はかじかみ、氷のように冷たい。
しばらく握りあっていると、少しずつだがじんわりと温もりが生まれる。
「一人じゃないから、温かいのよね……」
確認するように、マリコは土門の手をぎゅっと握る。
「そう……だな。二人だから温かい」
土門はマリコの顔を見つめる。
「そして、その相手がお前だから……離したくない」
土門はぐいと繋がった手を引き、マリコを抱きよせた。
「ねえ、土門さん」
「なんだ?」
「……………きっとできるわよ」
胸元からくぐもったマリコの声が聞こえる。
土門は知らず、口元が綻んでいた。
「……そうか」
「うん」
そのまま二人 ――――― 。
シルエットは重なったままだ。
まるで12時を指す、時計の針のように。
fin.